なくなる学校。地域にできることは?③ 先行地区の自治会長インタビュー【賛否万論】

 「なくなる学校。地域にできることは?」と題し、少子化時代の学校統廃合と地域の在り方をテーマにしています。前週までは4月に小学校が統廃合された静岡市葵区の藁科川上流域を取り上げましたが、今週は3小学校(旧中河内小、旧西河内小、旧和田島小)と1中学校(旧両河内中)を統合して2022年度に両河内小中が開設された同市清水区両河内地区の先行事例を紹介します。賛否の意見があった住民をまとめ、スクールバスの運営も担う同地区連合自治会長の中山治己さん(76)のインタビューを掲載します。
 (社会部・大橋弘典)

学校統合は地域づくりの“道具” 静岡市清水区両河内地区連合自治会長中山治己さん photo03 静岡市清水区両河内地区連合自治会長中山治己さん
 両河内小中への学校統廃合がスムーズにできた理由は。
 「学校統廃合の話をする前に、地域の運営について話をしておきましょう。私は元々、機械のエンジニアで技術者でした。中小企業の役員もやっていたので、プロジェクトの計画を立てて、物事の本質を探りながら、課題の解決にどのように取り組んでいけば良いのか考えることに慣れていました。企業の課題に対応するのも、地域の課題に対応するのも似た部分があり、プロジェクトをマネジメントするスキルが役に立ちました。たまたまそのスキルが自分にあったので、連合自治会のトップとして地域運営を一種のプロジェクトと捉えて進めています」

 地域コミュニティーの活動そのものをプロジェクトとして考えているのでしょうか。
 「例えば、地域住民の足となるバス問題の解決もプロジェクトです。両河内地区では、自治体がお金を払って維持している自主運行バスから大手バス会社が撤退しました。普通は大変だという話になるのですが、私はプロジェクトマネジメントの観点からいろいろと調べてみました。バス会社が自主運行バスを引き受けていた時は住民が使っても使わなくても一定の収入が自治体からバス会社に支払われていました。ところが、自治会が住民を雇って自主運行バスを運営したらどうなるのか試算してみると、自治体がバス会社に支払ったお金の半額ぐらいでできることが分かったのです。『ココバス』という名前を付けて、従来の2倍半に便数を増やし、バス停も2倍にしました。今ではバスを使う人が従来の3倍に増えています。住民は時給1000円で運転手になり、顔なじみですので乗客に安心感も生まれました。ココバスの運営を通じてコミュニティーが再構築されています」

 <自治会が住民に説明>
 学校統廃合とどのように結び付くのでしょうか。
 「学校統廃合もプロジェクトなのでマネジメントが肝心なのです。学校がなくなることをうれしいと思う人は一人もいません。住民が喜ばないことは最初から分かっているのです。そのような前提に立って物事を進めなければなりません。学校がなくなるとコミュニティーが崩れるとよく言われます。そう考える人たちを説得するためには、学校を取り巻くコミュニティーとは何かという認識をきちんと持たなければ対応できません。教育委員会の偉い人が来て『子どものためには学校統合しないといけない』と言えば、そうかもしれないと思う住民も一部います。でも、地元の学校がなくなる寂しさを感じる人は多いでしょう。そのような人に『仕方ないな』と思わせるぐらいのことをしなければならないのです」

 両河内地区ではどのように対応しましたか。
 「学校統廃合に懸念を抱く住民にとっては何が不満で何が問題なのか、統合ののろしを上げる前に調べ上げました。そして、約半年間かけて社会福祉協議会や民生委員、青少年育成など地域の各種団体の会合で説明を続けました。その際には学校関係者を前面に出すのではなく自治会側が住民に説明しました。学校統廃合の当事者は保護者なので、就学前の子を持つ人を含めて保護者にもアンケートを取りました。保護者の最大の関心事は通学方法だと分かり、事前に市長や教育長に根回しし、スクールバスを導入して保護者に追加の負担は一切かけないという約束を取り付けました。当初は3割ぐらい反対の人がいましたが、最終的に統合が実現しました」

 <子どもの応援団 設立>
 自治会として、学校統廃合をどのように捉えていましたか。

 「学校統合をツール(道具)として、まちづくりを進めてきました。まちづくりには地域で共通のツールが要るのです。言葉は悪いけれども、そのために学校統合を使ったということです。住民には自分の子や孫のために学校応援団になってもらう。せっかく統合する学校なので子どものために地域を盛り上げていこうと言えば、どの団体、どの年代にも通用します。サポーターズクラブという学校の支援組織をつくり、両河内小中はコミュニティースクール(学校運営協議会)も導入しました。学校を地域で運営する仕組みで、運営協議会のメンバーは約30人。学校側ではなく自治会側が選び、各種団体を入れ、関係者をみんな集めました。もちろん、統廃合で学校がなくなる地域のメンバーは優先して入れました」

 そのような仕組みを作れば、学校統廃合は地域にとって必ずしもマイナスにならないのでしょうか。
 「残念ながら、学校統廃合によって旧学校の独自色は数年間で均質化されてしまうでしょう。でも、例えば、地域の伝統文化を残したければ、住民が協議会を使って学校の中に入っていき、学校と一緒に子どもに教えていけばいいのです。学校とは別に伝統文化を残すプロジェクトに取り組む方法もあります。学校統廃合の計画を立てる時には地域のグランドデザインを描くべきです。地域づくりには担い手が必要になりますが、学校統廃合を通して地域の人材が育つ面もあります。いろいろなプロジェクトの経験を通して成功体験をする人が少しずつ増えていけば自信につながり、別のプロジェクトに生かされます。学校統廃合は地域づくりの一つに過ぎず、それが全てではありません」

 なかやま・はるみ 両河内地区で自主運行バス「ココバス」を運営するNPO法人「清流の里両河内」の理事長。プラントメーカーでエンジニアを務め、会社経営に携わった経験もある。76歳。
スクールバス、住民が運転手 両河内小中地元住民が運転するスクールバスに乗って登校する児童生徒=4月上旬、静岡市清水区の両河内小中  静岡市清水区の両河内小中は3小学校を統合して開設されたため学区の広さは大幅に広がり、徒歩通学が難しい児童が増えた。住民側の強い要望を踏まえて導入されたのがスクールバス。市が経費を支払って住民組織が運営する。運転手は地元の人で、防犯や交通安全の面で安心感があると受け止められている。
 「忘れ物だよ」―。新年度が始まったばかりの4月上旬の朝、スクールバスが学校の玄関に到着し、子どもたちがバスから降り始めると、しばらくして声がした。バス内をチェックしていた運転手が座席に残されていた横断バッグを見つけて児童に手渡した。
 スクールバスを運転するのは顔なじみの住民だ。同校の望月正教頭は「子どもの顔と名前を覚えてくれている。学校側としては安心です」と語る。スクールバスは自主運行バス「ココバス」を運営するNPO法人「清流の里両河内」が担い、ワンボックス車2台、中型バス2台の体制で全校児童生徒91人の大半を朝と放課後に送り迎えする。
 路線バスよりもきめ細かく設定したココバスと同じバス停をスクールバスでも使うため、自宅からバス停までの距離は比較的近い。学校の特別日課に合わせて送迎時間変更の融通が効くのも路線バスにない利点と言える。保護者の金銭面の負担はないという。
 同市葵区の藁科川上流域でも学校統合前に保護者がスクールバス導入を希望していた。ただ、両河内地区と異なり路線バスが維持されていて、市は「路線バスに補助金が投入されているため、スクールバスに税金を使うと二重投資になる」として導入に消極的だ。

ご意見お寄せください  少子化が加速する中で、あなたは学校の統廃合と地域の関係について、どう考えますか。統合後も活気あふれる地域を維持するためには何が必要でしょうか。さまざまな観点からの投稿をお待ちしています。お住まいの市町名、氏名(ペンネーム可)、年齢(年代)、連絡先を明記し、〒422-8670(住所不要)静岡新聞社編集局「賛否万論」係、<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>にお送りください(最大400字程度)。紙幅の都合上、編集させてもらう場合があります。

 次週は同じテーマで、学校統廃合と地域の関係を研究している有識者のインタビューをお届けします。

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