乱開発で20年前土砂崩れ 静岡県は説明せず未検証 熱海土石流起点

 熱海市伊豆山で2021年7月に盛り土が崩落して28人が死亡した大規模土石流を巡り、逢初(あいぞめ)川源頭部左岸の土石流起点で20年前に乱開発が理由とみられる土砂崩れが発生していたことが1日までの静岡県への取材で分かった。県はこれまで説明せず、土石流後に設置した二つの検証委員会や裁判所に情報提供していなかった。専門家は「1度崩落した場所で滑りやすくなっていた」と指摘。土砂崩れ箇所にはその後、崩落した盛り土が造成され、この部分の崩落が下流域の多くの住民を巻き込んだとみられる土石流最大波のきっかけになった可能性がある。

土石流の起点になった逢初川の源頭部。赤丸部分が2003年の土砂崩れ箇所(写真は本社ヘリ「ジェリコ1号」から21年7月に撮影)
土石流の起点になった逢初川の源頭部。赤丸部分が2003年の土砂崩れ箇所(写真は本社ヘリ「ジェリコ1号」から21年7月に撮影)

 土砂崩れの範囲が記載されていたのは03年5月の県の文書(D64)。北側の鳴沢川流域との分水嶺(れい)に近い逢初川源頭部の北東側斜面に「崩壊箇所」と記されていた。元は急な谷だった場所で、21年7月3日の土石流で大きくえぐれた部分と重なる。崩落した盛り土の最高地点にも当たる。この部分の地中にあった水道管の破断時間(午前10時53分)と土石流最大波の時間帯は一致している。最大波は午前10時55分ごろに下流域の「赤いビル」(丸越酒店)を襲い、その動画がSNSで拡散された。
 県は03年2月、分水嶺付近を無許可で開発していた業者に都市計画法に基づく工事停止命令を出し、土砂流出を防ぐ防災工事の計画書を提出するよう求めた。しかし、計画書が期限までに提出されず業者に提出を再要求する際の文書がD64だった。別の文書(D55)では無許可開発区域に関し「仮防災施設とみられる溝が掘られていたが、雨の影響で一部、崖が崩れている箇所があった」と書かれていた。
 業者は11年2月まで土石流起点の土地を所有していた神奈川県小田原市の不動産管理会社の関連会社。
 県は盛り土崩落原因は「隣接流域からの地下水が原因」としているが、県議会特別委員会で参考人として証言した地質専門家の塩坂邦雄氏は、乱開発に伴う隣接流域からの水の流入が原因とみていて「土砂崩れの跡に、なぜ盛り土を造らせたのか」と県の対応を疑問視している。
 県の担当者は「文書に書かれていること以外の詳しいことは分からない」とコメントしている。
 (社会部・大橋弘典)

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞