富士山構成資産 景観の美さらに 三保松原は消波ブロック一部撤去 白糸ノ滝、売店移転や橋架け替え

 富士山が持つ「信仰の対象」と「芸術の源泉」としての価値を証明する25カ所の構成資産。県内の構成資産を代表する「三保松原」(静岡市清水区)と「白糸ノ滝」(富士宮市)は世界遺産登録の際、高い価値が認められた一方、登録過程で人工物による景観上の懸念も指摘された。

富士山を眺望する三保松原。富士山の「芸術の源泉」と「信仰の対象」の両方を証明する構成資産として高い評価を受けた=7日、静岡市清水区(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
富士山を眺望する三保松原。富士山の「芸術の源泉」と「信仰の対象」の両方を証明する構成資産として高い評価を受けた=7日、静岡市清水区(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
富士山を眺望する三保松原。富士山の「芸術の源泉」と「信仰の対象」の両方を証明する構成資産として高い評価を受けた=7日、静岡市清水区(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)

 三保松原は「富士山、松林、砂浜、海」という日本の風景美の象徴としての価値が高く評価され、富士山頂から45キロ離れた場所にある逆境を覆して登録された。一方で国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関・国際記念物遺跡会議(イコモス)から、砂浜保全に必要な4カ所の消波ブロック群が景観上望ましくないと指摘を受け、県は登録後すぐに技術会議を開いた。約10年間で取り組む「短期対策」(2015~24年ごろ)やその後20年間で実施する「中期対策」(25~44年ごろ)を15年に取りまとめた。
  photo03   photo03 2013年12月(上)と22年10~11月に撮影した三保松原の航空写真。この間に離岸堤を整備し、消波ブロックの一部を撤去した(静岡県提供)
 短期対策に基づき、高さが抑えられ視認性が低い離岸堤1基を19年3月に整備。「羽衣の松」周辺からの景観で最も目に入る消波ブロック群1カ所については、22年3月までに一部を撤去した。23年度はさらに北側にある別の消波ブロック群の撤去に向けて別の離岸堤の設計作業を進めている。離岸堤の工事費はこの2基だけで約42億円に上る見込みで、県静岡土木事務所の内山翔太主任は「工事の必要性を来場者や県民に理解してもらう取り組みも進めていく」と話す。
 白糸ノ滝は、世界遺産登録に先立つ12年から13年にかけて富士宮市が中心となって整備事業に取り組み、景観が最も改善された構成資産の一つになった。
  photo03   photo03   2009年4月(上)と23年6月5日に撮影した白糸ノ滝。滝つぼのすぐ近くにあった売店を撤去し、来訪者用の橋を滝から離れた下流に掛け替えた(09年の写真は富士宮市提供)
 資産の中核をなす滝つぼに隣接していた売店2店舗を近くの高台に移したほか、老朽化していた来訪者用の滝見橋を撤去し、景観になじんだデザインの橋を滝つぼから離れた下流に架け替えた。富士山の眺望を阻害する周辺の電柱、電線の撤去を現在も進めている。現地で観光客を案内する市観光ガイドボランティアの会の高柳洋子会長は「富士山の構成資産だと強く感じられるようになった。ガイドとしてやりがいがある」と話し、来場を呼びかける。

登録10年に寄せて 近藤誠一氏(元文化庁長官)共感力の源 一層の意義
 富士山の世界遺産登録当時の文化庁長官で、登録に奔走した近藤誠一氏(77)が、22日の登録10年に際し静岡新聞社にコメントを寄せた。
    photo03 近藤誠一氏
 世界は大きく変化し、この10年でウクライナ戦争や温暖化など、分断や格差の危機が顕在化している。世界遺産条約は、世界が貴重な遺産保護のために連携することが「共感力」を育て、真の平和を生む-という、ユネスコ憲章の理念のシンボル。富士山の登録10周年を機に人々が世界遺産の本来の価値に立ち返って「共感力」を育むことができれば、分断を乗り越える力となるはずだ。
 「共感力」は人類が生き残るために古来身に付けてきた能力でもあり、文化・芸術はそれを育むことで人間を平和へと導いてくれる。日本の誇る富士山を、文化・芸術の力を体現するものとして世界にアピールしていってほしい。

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