社説(6月14日)新生「静響」3年目 愛される楽団づくりを

 静岡交響楽団と浜松フィルハーモニー管弦楽団の統合で誕生した富士山静岡交響楽団(静響)が、本格始動から3年目に入った。昨年4月には公益財団法人に認定され、企業などからの寄付を受けやすい体制を整えた。官民から一層の支援を得るためにも、広く県民から愛される楽団づくりを怠ってはならない。
 統合によって活動は県全域に広がり、今年5月には本年度の第1回定期演奏会を静岡、浜松両市で開催した。新型コロナウイルス禍によって活動の停滞を余儀なくされたが、演奏会の総入場者数や総収入は増えている。
 2021年ショパン国際ピアノコンクール入賞のアレクサンダー・ガジェヴさんら海外の著名ソリストを積極的に招聘(しょうへい)するなど、公演の評価も高い。プロオーケストラとして着実に成長を遂げている。
 現在は日本オーケストラ連盟の準会員だが、今月中にも正会員申請を行う。来年度の“昇格”へ道筋が見えてきた。その前提となるのは地元での充実した演奏と、知名度の向上である。
 まずは清水文化会館マリナート(静岡市清水区)とアクトシティ浜松(浜松市中区)を中心に展開する年十数回の定期演奏会を、満員に近づける必要がある。22年度は全席の約半分の集客に終わった。
 プロオケが存在する自治体は19都道府県に限られる。プロオケでつくる日本オーケストラ連盟の会員数は正準合わせて38にとどまる。
 「プロオケのある県」はシビックプライド(地元への誇り)醸成につながる。静響には、本県を代表するプロオケとして高い演奏力の維持を求めたい。そのためには財政基盤の安定化が必須だろう。
 静響の22年度の大小演奏会は130回を超え、総入場者数は4万4千人に達した。収入合計は前年度から増加し、2億3千万円になった。ただ、連盟正会員と比較すると収入の開きは大きい。25団体の平均は9億5千万円(21年度)だ。同じ地方オケで楽員数が近い山形交響楽団(山形市)は5億5千万円を超える。
 2管編成の50人規模のオーケストラを維持するためには年間で最低5億円が必要とされている。できるだけ早くこの水準に達するよう、運営努力を継続してほしい。
 知名度向上に“特効薬”はない。音楽の楽しさを伝え、県民との接点を増やす工夫を考えたい。例えば演劇をはじめとした他の文化団体と共演する機会を、もっと作れないだろうか。
 本年度から「改革推進期間」に入った中学校部活動の地域移行においては、指導面で活躍の余地がありそうだ。行政との実効性のある協議を期待したい。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞