第五福竜丸、教材から削除へ 「被ばくの記述にとどまり 実相継承には至らぬ内容」 広島市の小中高生向け平和教育、「はだしのゲン」に続き

 広島市教育委員会が、市立の小中高校を対象にした「平和教育プログラム」の教材から漫画「はだしのゲン」を削除する方針を決めた問題で、米国のビキニ水爆実験で被ばくした焼津市のマグロ漁船「第五福竜丸」の記述もなくすことが1日、分かった。教員用の指導資料には記述を残し、生徒に概要や参考文献を紹介するという。

「第五福竜丸」の記述がある、広島市教育委員会作成の「ひろしま平和ノート」
「第五福竜丸」の記述がある、広島市教育委員会作成の「ひろしま平和ノート」

 第五福竜丸は69年前の3月1日、太平洋マーシャル諸島ビキニ環礁での水爆実験に遭遇し、乗組員23人全員が被ばくした。日本で反核運動が高まるきっかけとなった。
 平和教育プログラムで使う市教委作成の「ひろしま平和ノート」では、第五福竜丸は核兵器を巡る世界の現状を学習する中3の部分に掲載されている。乗組員の被ばくや、半年後に40歳で亡くなった無線長の久保山愛吉さんなどを、写真とともに紹介している。
 市教委によると、プログラムを再検討する中で「第五福竜丸が被ばくした記述のみにとどまり、被爆の実相を確実に継承する学習内容となっていない」との指摘が出た。23年度からの改訂版は世界の核実験、核軍縮の動きを地図や表、グラフから具体的に捉えられる内容に変更する方針。
 都立第五福竜丸展示館(東京)の主任学芸員安田和也さん(70)は「第五福竜丸をはじめ、世界中の核開発や核実験の被害をしっかり伝え、みんなで考えていく教材になってほしい」と話した。

「史実 きちんと教えて」 焼津の関係者ら怒りの声
 広島市立の小中高校を対象にした「平和教育プログラム」の教材から、米国のビキニ水爆実験で被ばくした焼津港所属のマグロ漁船「第五福竜丸」の記述をなくすことが明るみに出た1日、焼津、静岡両市で行われた「ビキニ・デー」の参加者からは一様に怒りの声が上がった。
 「学校教育の現場で近現代史がおろそかになっている。いろんなことが切り捨てられていく」。元無線長久保山愛吉さん=当時(40)=の墓前祭に参加した、2021年に亡くなった元乗組員大石又七さん=当時(87)=の義妹河村恵子さん(75)は憤る。
 この日は焼津市内で久保山さんの墓参行進を4年ぶりに実施。全国の関係者が「原水爆の被害者はわたしを最後にしてほしい」という久保山さんの言葉をかみしめながら、核廃絶を誓い合ったばかりだった。参加した島田市の元教員粕谷たか子さん(73)は「たとえ米国にとって不都合な歴史でも、歴史の事実はきちんと教えるべきだ」と語気を強めた。
 静岡市葵区で行われた「ビキニ・デー全国大会」に出席した原水爆禁止日本国民会議の藤本泰成共同議長(67)は「戦争の実相を次世代に教えない、という圧力がかかっているのではないか」と現状を憂いた。
 (焼津支局・福田雄一、社会部・薬袋貴信)

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