静岡県職員の工事費水増し 8日地裁判決 予算消化優先の組織風土「余れば上司に迷惑」重圧か

 行政予算は使い切るべきか-。公共工事の予算を消化するため虚偽の公文書を作成し、事業費を増額させて県に損害を与えたとして虚偽有印公文書作成・同行使と背任の罪に問われた県職員の男の判決が8日に静岡地裁で言い渡される。

被告が担当監督員を務めた道路のり面の現場。予算消化するため請負代金が余分に支払われた=1月上旬
被告が担当監督員を務めた道路のり面の現場。予算消化するため請負代金が余分に支払われた=1月上旬

 男は起訴内容を認め、「予算を全て執行しなければいけない雰囲気が(職場に)あった」と証言。公判では事業費の抑制より予算消化を優先的に捉える組織風土の一端も浮き彫りになった。その背景に専門家は「公務員は予算額通りに仕事を進めることが職務評価につながる傾向がある」と分析する。
 「予算が余れば迷惑がかかる」。法廷で動機を語ったのは県職員の男(32)=停職4カ月の懲戒処分=。県下田土木事務所松崎支所に勤務していた2017年度、西伊豆町の道路のり面の防災工事で担当監督員を務めた際に工事規模が縮小することが判明。業者側への支払代金を約480万円減額すべきだったが、予算を使い切るため施工面積や資材を水増しして約500万円を増額した虚偽の設計書を作成し、県に約1030万円の損害を与えたとされる。
 県は予算事業費などが余った場合、原則として年末ごろまでに次年度への繰り越し手続きなどを行う必要がある。ただ、被告が当初の見積額よりも安価で済むことに気付いたのは1月末ごろで、予算の一部に国の補助金も含まれていた。国への財源返還の手続きが煩雑になることが予想され、被告は「上司が謝罪行脚しなければいけなくなる」と予算執行を重圧に感じていたことを明かした。
 被告は被告人質問で「(公務員として)間違った正義感を持っていた。県民に申し訳ない」と述べた。
 県財政課の担当者は静岡新聞社の取材に「予算は税金で賄われているため、無駄をなくし効率良く使うことを各部局に求めている」と説明。しかし、複数の県幹部は「事業費を余らせれば次から予算が付かなくなる。なるべく予算を使い切る考えは昔から根付いている」と内情を明かす。
 財務省出身で明治大公共政策大学院の田中秀明専任教授(政策研究)は「当初予算は本来、見積額だが、行政には計上額が正しいという認識がある」と指摘。地方自治体が国に財源を返還すれば理由などを問われ手続きが面倒になる傾向が強いとし、「予算を繰り越しやすい仕組みを考える余地があるのではないか」と話す。

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