家康の側室 於愛(おあい)の方ってどんな人? 2代将軍・秀忠の母 広く慕われた慈愛の女性

「於愛の方の肖像画」(宝台院蔵)
「於愛の方の肖像画」(宝台院蔵)

於愛の方の生涯
 於愛の方(おあいのかた)は天文21年(1552年)、遠江国西郷村(現・掛川市上西郷)生まれ。母方のいとこ・西郷義勝に嫁いだものの義勝が戦死し、叔父・西郷清員(きよかず)の養女となった。  その美貌が家康の目に止まって側室となり、天正7年(1579年)に家康の3男・長丸(2代将軍・秀忠)を、天正8年(1580年)には4男・福松丸(松平忠吉)を生んだ。秀忠誕生後は母方の家名と地名から、西郷の局と名乗った。
 三方ケ原の戦い、長篠・設楽原の戦い、小牧・長久手の戦いなど、戦が続いた家康の苦難の時代を支えた。家康とともに浜松城から駿府城へ移ったが、苦労が多く、38歳で死去。駿府の龍泉寺(現・宝台院)に葬られた。自身が極度の近眼だったこともあり、盲目の女性を保護するなど福祉活動に取り組んだ。慈愛に満ちた人柄ゆえ、家康から深く愛され、家臣や侍女からも慕われていたと伝わる。
菩提寺は「宝台院(ほうだいいん)」(静岡市葵区) photo01 於愛の方の菩提寺の宝台院=静岡市葵区常磐町
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 永正4年(1507年)、創建の浄土宗の寺院。天正17年(1589年)に於愛の方が亡くなると、徳川家の菩提寺「大樹寺」(現・岡崎市)と同じ浄土宗の寺院で、駿府で最大規模だった龍泉寺(現・宝台院)に葬られた。  その後、家康の自画像などが寄付され、於愛の方の17回忌が営まれた。元和2年(1616年)の家康の葬儀では、当時の同寺住職が葬儀の「副導師」を務めた。
 後に於愛の方の実子で2代将軍・秀忠により龍泉寺の改修が命じられ、寛永2年(1625年)に現在の位置である下魚町(現・常磐町)に移転、寛永5年(1628年)には於愛の方の戒名にちなんで宝台院と改名された。  京都の二条城と同じうぐいす張りの廊下や狩野派の襖絵が設けられるなど、秀忠の生母に対する敬愛の象徴的な存在となった。
 江戸城を開城して謹慎していた徳川慶喜も一時期、同院で暮らし、渋沢栄一や勝海舟らが見舞いに参上した。静岡大火や静岡空襲で焼失。昭和45年(1970年)に現在の本堂に建て替えられた。  徳川最初と最後の将軍に縁が深く、徳川慶喜の愛用品など徳川家に関する寺宝を多数所蔵している。 photo01  

「阿弥陀如来立像」。家康が戦場に持っていくほど大切にしていた。
 本人にかわって弓を受けたこともあり「守り本尊」となったと伝わる。
 金箔の下に白い胡粉が使われていて、白本尊とも呼ばれる。
 静岡大火の際、当時の県職員が駆けつけて運び出し、焼失を免れた。

生誕地とされる「構江区(かまえく)」(掛川市上西郷) photo01 於愛の方と上西郷の地のゆかりを紹介する看板=掛川市上西郷の構江公民館
 

 掛川市上西郷の構江区は於愛の方の生誕の地とされる。構江公民館には「二代将軍徳川秀忠公の生母西郷ノ局生誕の地」とする碑や案内看板が立っている。周囲より少し高いこの一帯に、土塁や堀を巡らせ、屋敷があったと考えられている。近くには父・戸塚五郎太夫忠春といとこ・於国の供養塔もある。

 公民館には「斎宮(いつきのみや)様」をまつるほこらも残る。公民館の看板によると、於愛の方が秀忠を産んだ頃に家康から屋敷が与えられ、屋敷神として「斎宮(いつきのみや)」がまつられたという。斎宮がまつられた詳しい理由は分かっていない。地元に伝わる御詠歌「いつき ぼさつ わさん」には於愛の方の美しさを表現する一節がある。

 「その名を あい女と 名づけたり うまれ ついたる かをかたち たとへ かたなき うつくしき かをは やよいの はなにこび まゆは むつきの あをやなぎ かみは そしゆうの くもをこめ ふようも ねたむ はだへにて こえの すずしき なつのよに まつの かぜにや かようらん ときしも てんしょう ねんかんに しょだい しょうぐん とくがわの いえやす こうの めにとまり あい女を つぼねに めしたまふ 二代 しょうぐん ひでただを なんなく しゅっさん ましまして 御年 三十八の はる のべの けむりと たちたもう なむ いつき だいぼさつ」


掛川には顕彰碑や物語冊子も photo01 石碑に手を合わせる石野さん夫妻=掛川市の龍華院(写真は2022年3月8日あなたの静岡新聞)
 

 掛川市の米穀店経営の石野篤さん(77)と妻で郷土史家の茂子さん(74)は2022年3月、同市上西郷に誕生したとされる於愛の方を顕彰する石碑を龍華院に建立した。

 また、茂子さんは2019年、於愛の方の一生をつづった物語冊子「西郷の局物語「お愛さま」」を製作した。母のお貞の方の心情を想像し、於愛の方の波乱万丈な人生や聡明な人柄を易しい言葉で紹介している。  冊子はJR掛川駅南口の掛川観光協会ビジターセンター「旅のスイッチ」などで販売しているほか、市内の図書館にも配架されている。

家康がよく分かる 正室・側室/人柄/戦い
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