富士市の自転車事業 社会実験に着手 観光から日常利用探る【解説・主張しずおか】

 自転車利用で活力あるまちづくりを目指す富士市が、サイクルツーリズム環境を充実させるための社会実験に着手した。標高差のある市域は自転車の利用が進まないことが積年の課題だが、乗りやすさの要素を示して現状の打開を図る。観光促進の取り組みを入り口に、日常の利用者も増やす狙いがある。

自転車事業について話し合う官民の担当者。日常の利用促進を探る=12月上旬、富士市役所
自転車事業について話し合う官民の担当者。日常の利用促進を探る=12月上旬、富士市役所

 環境負荷の軽減、渋滞緩和、市民の健康増進、観光振興-。さまざまな効果が期待される自転車の活用に、国と県には推進計画がある。富士市も同様の計画を策定し、プロサイクリングチームの拠点や魅力的な景観など地域資源を生かした具体策を練る。半面、自転車利用を提供する施設や走行ルートは十分でないのが地域の実情だ。
 市の社会実験は道路施策の在り方を探る全国7件の実施事業の一つに選ばれ、一般会計補正予算に国の委託金を計上した。観光利用を第一義とする採択は2年間と時限的だが、関心が注がれる機会と捉えて従来の取り組みに弾みを付けたい。
 社会実験は市や民間事業者が連携し、モデルルートやレンタサイクル貸し出し拠点の検討などを進める。実施に当たっては道の駅での調査や岳南鉄道の活用も想定。地域の実態に沿った実証データは、利用促進へ努めて生かすべきヒントになるだろう。
 官民の連携は市と、自動車用変速機メーカー「ジヤトコ」(同市)との協定がベースにある。今年3月、自転車を活用して社会課題の解決を目指すことを確認し、具体策について担当者間の協議が行われている。
 坂道が多い富士市は移動に自転車が選ばれにくい。さまざまな交通手段の比率を示す交通分担率を見ると、富士市では自転車が5%で、全国の13%を大きく下回る。夜間勤務者も多い産業の街は、車への依存が高くなるのは必然ともいえる。
 自転車の走行空間を開くためには、車や歩行者の安全確保が大前提だ。長大なコースの整備を求めるだけでなく、すいている道路への誘導や利用者の意識向上によっても交通環境は改善される。市担当者は「一体的な取り組みを目にしてもらうことが走りやすさの実感につながる」(交流観光課)と話す。
 移動手段を自転車に換え、楽しむ文化として根付かせるには、発信力のある団体が集うこの社会実験は逃したくない好機だ。市が掲げる持続可能なまちづくりへの近道を、多くの視点で見つけたい。

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