大自在(9月29日)本を通じた「恩送り」

 2001年に日本公開された米国映画「ペイ・フォワード」(ミミ・レダー監督)。「世界を変えたいと思うなら、何をする?」。ケビン・スペイシー演じる社会科教師は生徒に課題を与える。
 受けた恩や善意をその人にでなく、周りの人に返していく―。1人の生徒が思いついたアイデアはやがて大人たちの心の傷を癒やしていく。キリスト教の隣人愛を連想させるが、原題でもある「ペイ・イット・フォワード」は「恩送り」と訳されることが多い。
 掛川発の「ペイフォワード文庫」が全国に広がりつつある。大人が中高生に読んでほしい10冊を選んで購入し、提供する。昨年6月、市内の高久[たかく]書店で始まった。月替わりの送り手は、市内の経営者や医師、地元ゆかりの作家ら多岐にわたる。
 「秘めた読書欲」に応える「子ども食堂の書店版」―。店主の高木久直さんが客との雑談から着想し、今では市外から来店する中高生も。送り手と受け手をつなぐ試みに、都内の出版プロデュース会社「ブックダム」(菊池大幹代表)も注目する。
 今年2月の専用サイト開設以来、全国約70店が賛同し、既に7都府県12店で実施。愛読書で結ぶ「恩贈り」の「恩送り」。菊池代表は「大人と子ども、書店の好循環」を目指し、高木さんは「商売の中にも公の心を持ち続けたい」と話す。
 ネット社会の情報量をみれば、「若者の方が文字に触れている一方、物語に親しむ点では読書難民」と高木さん。若者の読書離れが言われて久しいが、離れたのは「若者」ではなく「きっかけ」かもしれない。

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