大自在(10月29日)公平に分ける

 分数を知らない幼稚園の時のこと。先生が3個のドーナツの絵を持って問題を出した。「4人で分けるにはどうしたらいいでしょう」。じゃんけんする、ひとりは我慢する、などひと通り意見が出た後、普段は目立たない女の子が手を挙げて「どれも四つに切れば、分けられるよ」。先生がにっこり笑ってその子を抱き寄せたことを思い出す。
 静岡県社会福祉協議会が中学生向けに作製した地域福祉教育の副読本「ふむふむ程度。」のあとがきに、似た問いかけがある。ひとりの教師と3人のこどもたちで10個のあんパンを「公平に」分けるにはどうするか。「こどもは3個ずつ、大人は1個」「大人は4個、子どもは2個ずつ」…。
 食べる量もおなかのすき具合も違う。好き嫌いもある。数や形だけ合わせることは必ずしも「公平」とは言えない。さて、税収増の「還元」は公平か。
 副読本は、地域とのつながりの中で生徒たちが「いのち」「くらし」「共生」を学ぶのに役立ててもらおうと作られた。五つのテーマは県内市町での逸話を踏まえている。
 その一つは人生で「旬」は一度きりかと問う。高齢者福祉を学ぶ授業で白内障や視野狭窄[きょうさく]を疑似体験するゴーグルを装着した感想を「年をとりたくない」と言う子がいると聞いたことがある。
 副読本は「13歳の旬」があれば「90歳の旬」もあると、老いをマイナスと捉えない思考を促す。県内全ての中2に配ったという。今は「ふむふむ、そんな見方もあるのか」程度でもいい。視点を変え、他人の立場になって考える習慣がつくといい。

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