大自在(11月9日)壁

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの奇襲で始まったイスラエルとの戦闘は1カ月がたった。ガザ、イスラエル双方の死者は計1万1900人以上と伝えられている。
 コンクリートの分離壁や鉄条網付きのフェンスで囲まれたガザ地区は「天井のない監獄」とも言われ、パレスチナ問題の不条理を物語る。
 ガザの子供が貧困に苦しんでいた頃、境界近くのイスラエル側では若者が野外音楽祭に興じていた。結果的に血みどろの音楽祭になってしまったが、壁1枚を挟んだ日常の違いに改めて驚かされた。
 同じような壁でまず思い浮かぶのがベルリンの壁だろう。米首都ワシントンのニュース博物館で展示されていた実物を見たことがある。色鮮やかな落書きで彩られた西側の壁に対し、東側の壁は無機質な灰色のままで、東西冷戦を象徴する明暗を感じた。
 ベルリンの壁が崩壊したのは34年前のきょう。東欧革命のうねりの中、東ドイツ政府が国外旅行と移住規制の撤廃を発表し、28年間にわたってドイツ民族を引き裂いた壁は事実上消滅した。ただ、20年後の世論調査で「壁の復活を望む」という回答が15%もあったというから複雑だ。旧東西住民の軋轢[あつれき]が新たな分断と懐古主義を生んだという。
 パレスチナ問題は「2国家共存」を求める国際社会と激しく拒絶するハマスのはざまで血塗られた平行線をたどる。これ以上の長期化は避けてほしいが、グローバル経済を信奉する大国の思惑が交錯する限り、真の解決を阻む壁が立ちふさがり続ける気がしてならない。

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