小さく正確、世界が驚いた! クオーツ式腕時計を設計 下平忠良さん(1961年度卒)【(イ)創造の100年 静岡大浜松①】

 静岡大浜松キャンパス(浜松市中区)が今年、創立100周年を迎えた。開校間もない1926年、教員だった高柳健次郎が世界で初めてブラウン管にイロハの「イ」の字を映して以来、幾多の人材を輩出し、ものづくりの現場や地域を支えた。画期的な製品開発に携わった卒業生や、未来への技術革新を生み出そうと奮闘する研究者を紹介する。

世界初のクオーツ式腕時計として発売された「セイコークオーツアストロン35SQ」(セイコーエプソン提供)
世界初のクオーツ式腕時計として発売された「セイコークオーツアストロン35SQ」(セイコーエプソン提供)
クオーツ腕時計開発の思い出を語る下平忠良さん=8月下旬、長野県塩尻市
クオーツ腕時計開発の思い出を語る下平忠良さん=8月下旬、長野県塩尻市
世界初のクオーツ式腕時計として発売された「セイコークオーツアストロン35SQ」(セイコーエプソン提供)
クオーツ腕時計開発の思い出を語る下平忠良さん=8月下旬、長野県塩尻市

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 高度経済成長期の1969(昭和44)年12月、東京銀座の服部時計店(現・セイコーウオッチ)で一つの商品が発売された。世界初のクオーツ式腕時計「セイコークオーツアストロン35SQ」。月差プラスマイナス5秒という当時としては圧倒的な正確さ。技術力の評判は業界にとどまらず、疾風のように国内外を駆け抜けた。
 製造元の諏訪精工舎(現・セイコーエプソン)で設計を担当した下平忠良さん(84)=長野県塩尻市=は「世界で最初に製品化できたのは大変な名誉だったし、技術者の誇り」と思い起こす。
 下平さんは同県飯田市出身で、58年に静大工学部精密工学科に進んだ。浜松市に下宿して機械工学や金属加工を学び、佐鳴湖でボート部の練習に打ち込んだ。実習でミシンを分解し、部品を1点ずつ製図したことも。卒業後は「ものづくりに携わりたい」と地元信州の時計メーカー、諏訪精工舎に就職した。
 クオーツ式時計は水晶に電流を流すと発生する振動を利用する。27年に米国のベル研究所が開発したが、初期はたんすほどもある大きさだった。腕時計にするには30万分の1に小型化し省電力や耐久性向上を実現しなければならなかった。
 下平さんは入社後、64年の東京五輪で公式計時装置に採用された卓上型クオーツ式時計の設計に携わった。米国やスイスの大手も腕時計化へ動く中、同社は静大OBの社員を中心に楽器の調律に使う「音叉(おんさ)」からヒントを得た小型水晶振動子を開発。現場の熱気に後押しされ、下平さんは直径3センチ、厚さ5ミリのムーブメント(機械体)に約300点の部品を収める緻密な設計を、わずか数カ月で仕上げた。
 「国内外の多くのメーカーが開発にしのぎを削り、時間との闘いだった。大学時代からの知識の積み重ねも生きた」と下平さんは振り返る。後年は、同社主力事業のプリンター開発にも取り組んだ。
 爆発的に普及したクオーツ式腕時計の技術は携帯電話などに応用され、現代の社会生活を支えている。次代を担う技術者に向けて「新しいものを生み出そうという挑戦の気持ちを常に持ち続けてほしい」と強く願う。

 

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