国策映画作った父の足跡 伊勢真一監督「いまはむかし-父・ジャワ・幻のフィルム」

 第2次世界大戦中に国策映画を手掛けた記録映画編集者の足跡を追う「いまはむかし-父・ジャワ・幻のフィルム」は、伊勢真一監督が30年をかけて製作したドキュメンタリー。インドネシアでプロパガンダに関わった父、伊勢長之助の真意に迫った真一監督は「過ちを繰り返さないために、今こそ過去を見つめ直したい」と訴える。

「いまはむかし―父・ジャワ・幻のフィルム」より
「いまはむかし―父・ジャワ・幻のフィルム」より
「語り継がれなかったことの重みに想像力を働かせる作業だった」と語る伊勢真一監督=静岡市内
「語り継がれなかったことの重みに想像力を働かせる作業だった」と語る伊勢真一監督=静岡市内
「いまはむかし―父・ジャワ・幻のフィルム」より
「語り継がれなかったことの重みに想像力を働かせる作業だった」と語る伊勢真一監督=静岡市内

 戦時中にアジア各地を占領した日本。オランダからの解放を名目にインドネシアの人々を“日本人化”するため、長之助は現地に出征する-。真一監督は約30年前、父の映画作りをたどる周辺取材に取りかかった。インドネシアの撮影所やスタッフを訪ね、幻のフィルムが保管されているというオランダへと向かう。
 文化戦線の一員として長之助たちが作った映画は約130本。「東亜のよい子供」「貯金しましょう」「日本語競技会」-。ほとんどが日本未公開という行方知らずの作品は、インドネシアを支配したオランダの視聴覚研究所に眠っていた。
 父と暮らした時間は短く、何を考えていたかはほとんど知らないという真一監督。「ジャワの人ととても仲良く仕事をした、と話していたことをかすかに覚えている」という半面、親日的とされるインドネシアへの負い目が常にあった。インドネシアの年配女性が何も語らない映像は何よりも真実を物語る。
 日本の敗戦後、現地を再び統治したオランダのおかげでフィルムが残っているのは皮肉だが「歴史的な資料として敵国のフィルムを長きにわたって管理してくれている。文化に対するこれだけのリスペクトを日本は持っているだろうか」。昔の日本を改めて見つめ直してもらいたいと願っている。
 真一監督の長男がディレクター、長女がナレーターとして参加。話を聞かせてもらった映画人はすでにいなくなった。「戦争と映画の関わりを正面から取り上げるのに時間がかかりすぎた」。3代にわたる旅が、長く語られなかった声をすくい上げる。

 ■20日、静岡で上映 
 「いまはむかし」の特別上映会が20日午後1時半から、静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリーで開かれる。伊勢長之助の作品「東京裁判―世紀の判決」(17分)を同時上映するほか、伊勢真一監督のトークがある。前売り券1400円、当日券1800円。問い合わせは同館<電054(250)0283>へ。

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