【表層深層】物価高 節約志向の高齢者 消費低迷脱却 見えぬ糸口 GDP年率2.0%減

 内閣府が発表した1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は2四半期ぶりのマイナスだった。年率換算で2・0%減。物価高で個人消費の低迷が長引き、年金生活者からはため息が漏れる。大企業の春闘は好調だったが、中小企業への賃上げ波及は見通せない。金融政策で円安を阻止するよう求める声がある一方、利上げは景気を冷やす効果があり、日銀は難しい判断を迫られている。

東京・巣鴨の商店街を歩く高齢者ら=11日、東京都豊島区
東京・巣鴨の商店街を歩く高齢者ら=11日、東京都豊島区


 ▼1000円超え定食
 5月中旬の週末。東京・巣鴨は高齢者らでにぎわっていた。妻と買い物に来た埼玉県川口市の無職男性(73)は65歳まで働いた。「退職後も年1回の海外旅行を楽しんでいたが、今は何もかも値上げ。ぜいたくしないようにしている」とため息をついた。靴専門店の男性店主(60)は「単価の低い商品でも吟味して買う高齢者が多い」と話した。
 行列のできていた飲食店の入り口には、原材料の高騰で値上げしたとの張り紙が。千円を超える定食が多かった。
 ニッセイ基礎研究所の坊美生子氏は、総務省の家計調査で1~3月の消費支出の実質減少率が対前年で勤労世帯より無職世帯の方が大きかったことから「高齢者が不安から節約志向を高めている」と分析する。

 ▼二つのハードル
 終盤に入った2024年春闘は33年ぶりに賃上げ率が5%台になると見込まれる。賃金の上昇率が年内に物価高に追い付くとの見方も民間エコノミストの間に出ている。だが二つのハードルを越える必要がありそうだ。
 一つは円相場。4月に一時1ドル=160円台へと急落したが、5月16日の東京市場は154円程度と小康状態にある。だが再び円安が進めば物価は押し上げられ、賃金の伸びは追い付きにくくなる。明治安田総合研究所の吉川裕也氏は「1ドル=170円まで円安が進む場合、実質賃金の安定的なプラス推移は難しい」と話し、追い付かない状況が続くと予測する。
 もう一つが中小企業の賃上げだ。厚生労働省の推定によると雇用者数が100人以上999人以下の企業の組合組織率は10・2%と低く、99人以下の企業では0・8%にとどまり、労使交渉の土台が弱いと言える。人手不足から賃上げに踏み切る中小企業は増えているが、利益が増えない中でやむなく賃上げする事例もある。大手企業は中小からの値上げ要請を適正に受け入れる必要がある。

 ▼「楽観視できず」
 経済政策の司令塔、経済財政諮問会議の10日の会合では円安に矛先が向いた。十倉雅和経団連会長ら民間議員は現状を「急激な円安」と警戒。「過度な物価上昇は民需の抑制につながる。適切な金融政策運営で2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現を期待する」と表明し、日銀が金融政策で円安を是正するよう暗に促した。
 一方、政府関係者は「利上げで円安を是正できても景気を冷ます恐れがあり、簡単な話ではない」と説明する。個人や企業が資金を借り入れる際の金利が上がるためだ。
 新藤義孝経済再生担当相は今回のGDPに関し「景気の動きによるものとはいえない各種の特殊要因の影響もあった」との発表文を出した。確かに自動車の出荷再開が進み、4~6月期はプラス転換するとの民間予測も目立つ。
 だが、ある閣僚は中小企業の賃上げが見通せないとして「決して楽観視できる状況ではない」と語る。着実な成長に向けた糸口は依然、見えていないのが現状だ。

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