(文・写真=高度専門記者兼論説委員・橋爪充)

ロン・ミュエクは1958年オーストラリア生まれで現在は英国在住。1996年の現代美術界デビュー以降、人間をテーマにした精緻な具象彫刻を作り続けてきた。日本では2008年に金沢21世紀美術館で開催されて以来、2度目の個展となる。
展示室に入る前に、作品リストを確認するとミュエク作品は11点。そこに、長く彼の制作風景を撮影しているゴーティエ・ドゥブロンドの写真と映像が加わる。
『マスクII』(2002年)
有り体に言うと、「11点だけで展覧会が成り立つのか」との疑念があった。ミュエクは非常に寡作でこれまで世に出たのは49点のみ。そのうち代表作が11点が来ているとはいえ、広大かつ天井の高い森美術館の展示スペースがスカスカに見えないか。そんな意地悪な気持ちもあった。
ところが、それは杞憂だった。会場はざっくり六つのエリアに分けられていたが、11作品は固形物としてではなく、空間を支配する存在として目に映った。彫刻と言うより、インスタレーションを目にしているような感覚だった。毛穴の一つ一つ、眼の周りのシワの一つ一つ、足指のいびつな形一つ一つ、といったディテールの真実性は評判通りだったが、それ以上に「人物を題材にした彫刻が美術館に置かれている」という状態そのものが、強烈に「作品」を感じさせる。
『マス』(2016~2017年)
最終の展示作品「マス」は、一つの空間が巨大な頭蓋骨の彫刻100個で埋め尽くされている。ミュエク本人が一つ一つの設置場所を指示したという。順路のようなものが漠然と用意されていて、観覧者は「頭蓋骨の森」を漂うことになる。私たちが脳内でしか思い浮かべられない世界が、目の前にある。そして、受け取ったイメージが再び脳内に戻っていく。自分がこの世界の一部であると、強く意識する。鑑賞者は、ここまでたどってきた作品群を反芻することになる。ミュエクの作品はよくできた蝋人形とどこが違うのか? 恐らくそれは、人間の感情に深く立ち入ろうとする作家としての欲望があるかないかだろう。
『イン・ベッド』(2005年)の一部
現し身のトレースは職人的な作業で、それ自体のスキルが極めて高いこともすぐ理解できる。ただ、ミュエクの作品には目の前にある「人形(ひとがた)」のドラマを構築し、それを鑑賞するであろう私たちの感情へ働きかけてやろうという意志、意欲が確かにある。アトリエで作業する映像をぼんやり見ているうちに、「実のところ、こうした作業ではない部分に、多くの時間が費やされているんだろうな」と思い至った。アーティストは核心部分を隠したままだ。
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■森美術館「ロン・ミュエク」
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー
開館:月・水~日曜は午前10時~午後10時、火曜は午前10時~午後5時(会期中無休)
観覧料(当日窓口):一般2300円(土・日・休日2500円)、高校・大学生1400円(同1500円)、65歳以上2000円(同2200円)、中学生以下無料
会期:9月23日(水・祝)まで








































































