【吉原祇園太鼓セッションズ(富士市)のリーダー内藤さん、太鼓yasさんインタビュー】伝統と革新の初アルバム「Taiko!」はどうやって生まれたのか

2015年に富士市で結成された9人組「吉原祇園太鼓セッションズ」が初アルバム「Taiko!」をリリースした。地元の吉原祇園祭のおはやしをバンドサウンドに取り入れる独自のスタイルを突き詰めた11曲を収録。伝統文化への敬意と、新しい音楽への好奇心が混ぜ合わさったオリジナリティーの高い楽曲群は、音楽誌「ミュージック・マガジン」からも高い評価を得た。これまでの活動の集大成的な作品が生まれるまでの過程を、リーダーでギター、鉦、太鼓担当の内藤佑樹さん、太鼓担当のyasさんに聞いた。なお、吉原祇園太鼓セッションズは11月8日、地元富士市吉原のライブハウスのイベントに出演が決まっている。詳細は記事末尾を参照。(聞き手、写真=論説委員・橋爪充 CD写真=久保田竜平)

吉原祇園太鼓セッションズの内藤佑樹さん(右)、yasさん=8月中旬、富士市吉原のBar Double

太鼓とリズム隊はライブハウスで「一発録り」

-活動10年で初のアルバムですね。

yas:そんなに大げさなものでもないんです。活動しているうちにあれよあれよというか。

内藤:今回は(富士市のレーベル)「こだまレコード」主宰のTOP DOCAさんが「出そうよ」と言ってくれたり、周りの人が面白がってくれたりしたのが大きいです。流れるままに活動を続けたらこうなった、という感じですね。

-ライナーノーツに(富士市の野外音楽フェスティバル)「FUJI&SUN」の2021年開催の時にDOCAさんから誘いを受けた、とありますね。

yas:「FUJI&SUN」には2021年から出演させていただいています。ここ何年かは(ナツ・サマーさん、モッチェ永井さんといった)ゲストを迎えて演奏しているんですが、それもあって出演のたびに新曲ができていって。

内藤:(新曲を)求められるところもあったんです。だから、なるべくして10年目にこう(アルバム制作)なったのかなというところもあるかもしれません。

吉原祇園太鼓セッションズの初アルバム「Taiko!」


-レコーディングはどう進めていったんですか。大太鼓小太鼓など打楽器専業のメンバーだけで6人もいます。

内藤:(CDを)出すと決まる前からちょこちょこ録っていたんです。一番古いものは2023年の末かな。

yas:ただ、レコーディングの時間で言えば結構コンパクトで。パッと集まって3、4時間。多くても3、4テイクぐらいでしょうか。パッケージを録ったらギター、サックスなどは個別で録音。そっちはだいぶ時間がかかりました。

内藤:僕ら、太鼓隊とドラム、ベースのトラックは一発録りなんですよ。

yas:これがまた難しい。リズムしかないんで。

-打楽器がたくさんあるだけに、録音には相当広い空間がないと難しいように感じますが。

内藤:(富士市のライブハウスの)アニマルネストです。ステージにドラムがいて、フロアに太鼓を並べて。

yas:(ステージの)緞帳を閉めて互いの音が干渉しないようにして。姿が見えないので、太鼓隊はイヤホンでドラムとベースの音をもらいながら演奏しました。

内藤:DIY 的な雰囲気ですが、おはやしはセットでやらないとお祭りの雰囲気が出ない。セパレートされたレコーディングブースで個別に録った方がいいのかもしれませんが、結果的には(同フロアでの一発録りの方が)いい感じになるんです。

-一斉に音を出すことが大切なのですね。

yas:(2022年の)初シングルの録音ではおはやしの音にすごく時間がかかりました。10時間ぐらいだったかな。まだ身になっていないところもあって。

内藤:何回かレコーディングをやらせてもらう中で、自分たちが考えるおはやしの音を追求しました。アニマルネストは音がデッド過ぎず、やや響くんです。エアのマイクを立てて録った音がちょうど良くて。おはやしはお祭りの中にあるもので、そんなに整った場所でやるものじゃない。山車の中で反響してもいる。レコーディングを通じてそういう音だと改めて知りました。

-曲はどう決めたんですか。ライブの定番はほとんど入っている印象です。

内藤:選ぶほど曲がない(笑)。手元にあるものは全部入れました。

-長く演奏している曲が多いからでしょうが、よく練り上げられているように感じました。 「蝶々さん/にくずし」は細野晴臣さんの「泰安洋行」(1976年)の収録曲「蝶々-San」のカバー。吉原祇園祭のおはやしの「にくずし」のリズムで演奏しています。この2曲に共通点を見いだしたのは画期的ですね。

内藤:「泰安洋行」は20年ほど前に知りました。その時は「カッコいい」と思って聴いていただけでしたが、何年かして「にくずし」と同じグルーヴ感だと気づいて。それからおはやしが楽しくなっちゃったんですよ。同時にお祭りの人たちがとても高度なことをやっていたことに気付きました。「蝶々-San」をきっかけに、異なる価値観を手に入れた。

-ナツ・サマーさんが加わった曲「ダヒルサヨ fest. ナツ・サマー」は、2024年に「こだまレコード」から7インチシングルでリリースした楽曲ですね。

内藤:FUJI&SUN’24でナツ・サマーさんとコラボすることになったので、同時進行でこだまレコードから音源も出そうということでリリースしました。こだまレコードはジャマイカのスタンダード曲を日本語でカバーして出すというスタイルのレーベルなんですが、DOCAさんから「何の曲をやりたいですか」って聞かれて、どうしようかと。前年の(富士市内の音楽イベント)「吉原寺音祭」で、最後に出演者みんなでセッションした「ダヒルサヨ」の光景が感動的で曲もすごく良かったので、この曲をやりたい、とリクエストしました。

-作詞のクレジットに「浜口庫之助」とありますが。

内藤:小林旭さんが歌っているバージョンがあるんです。その歌詞を使わせてもらっています。

2022年5月14日、「FUJI&SUN」での演奏風景=富士市の富士山こどもの国

吉原に伝わる「にくずし」「おだわら」

-バンドの成り立ちを教えてください。お二人を含め、メンバーの皆さんは子供の頃から祭りの太鼓に関わっていたのですか。

yas:今46歳なので、40年間ぐらい触れているかな。僕の時代は 小学校3 年生までは太鼓をたたけないというルールがありました。(太鼓の数が限られているので)人数制限があったんですね。3年生になったらベテランさんから教わる感じでした。

内藤:うちの町内は人が少ないので、幼稚園に入るか入らないかぐらいで太鼓に触れました。

-曲はどうやって作るのですか。

内藤:一つは、太鼓がまずあって、ほかの楽曲が自然に入り込んで行くパターン。もう一つは、元曲があって、そこに(おはやしを)ミックスさせるパターン。例えば(アルフレッド・エリス作曲、ジャコ・パストリアスの演奏で知られる)「The Chicken/おだわら」は「The Chicken」だけの感じと、「おだわら」というおはやしと合わせた感じはずいぶん違います。元曲はかっちりしたテンポだけど、おはやしは特有のグルーヴを強く持っている。その二つをどう寄り添わせるか。パーカッションのようにおはやしを入れるのもありだし、逆におはやしのグルーヴをできるだけ生かして元曲に混ぜ合わせるのもありなんです。寄り添わせ方、どちらに偏らせるかを常に考えています。

-ベースになるおはやしで言えば、 このアルバムでは「にくずし」と「おだわら」が何回も出てきます。この二つはどういう位置づけなんですか。

内藤:「にくずし」は太鼓を始めたら最初に習うんです。基本的にはテンポがスローで展開もないので、覚えるのが楽。お祭りの中では競り合いではない時に演奏します。

-「おだわら」はどんなおはやしですか。

内藤:テンポが速いので、基本的に競り合いの太鼓です。「にくずし」で太鼓の基礎ができてから習います。でも、上級者になると逆に「『にくずし』のほうが難しいよね」という話になってくる。

yas:音数が少なくてシンプルだからこそ難しい。ブレが出ちゃう。

内藤:セッションズ的に言うと「おだわら」より「にくずし」の方が面白くなりやすいですね。独特のグルーヴ感があるんです。揺れているリズムにロマンを見いだす立場としては。別の曲とミックスしやすいようにも感じています。

-「にくずし」「おだわら」の漢字表記は。

内藤:「荷崩し」「小田原」だと言われていますが、はっきりしません。町内ごとに漢字表記が違うこともあり、セッションズではひらがな表記にしています。小田原市に「小田原ばやし」があって、江戸のおはやしが西に流れてきたようです。僕らの「おだわら」は、その小田原ばやしが転じたという調査結果があります。恐らく「おだわら」は地名の「小田原」なんでしょう。ただ、町内によっては「緒俵」と書く場合もある。よその地名を使うのもな、ということでいつからか当て字になったのかもしれません。

2024年5月11日、「FUJI&SUN」での演奏=富士市の富士山こどもの国

おはやしは町内ごとに「なまり」がある

-吉原祇園太鼓セッションズはおはやしを自分たちなりに演奏するだけでなく、他の楽曲とミックスするというのがユニークなところですが、こういう形式で演奏するようになった経緯を教えてください。

yas:手持ちのビートが「にくずし」「おだわら」、それしかないんです(笑)。

内藤:苦肉の策ですね。町内によっては別のおはやしがあるんですが、ほとんどの町内が「にくずし」と「おだわら」で勝負している。バンドを結成した時に最初にぶち当たった壁が「曲がねえ」という。

-とはいえ、同じおはやしを使っても全く違う曲になっている。同じビートの上のいろんな音を載せるという点で、DJに近いセンスを感じます。

内藤:ロックバンドだったら8 ビートの曲が4曲あっても普通だし、みたいな開き直りはありますね。「おだわら」で2曲続けてもいいじゃないかって。

-同じ「おだわら」でも楽曲によってのりが違いますね。

yas:相当変えて演奏しています。

-別のおはやしを持ってきて使う、ということは考えなかったんですか。

内藤:特にバンド結成時は、絶対に(吉原のおはやしから)はみ出しちゃだめだと思っていました。吉原の中でやっている分には胸を張っていいと思うけれど、パーカッショニスト、それこそ(佐渡島を拠点にする太鼓グループ)鼓童さんみたいな太鼓奏者と同じ土俵に上がってしまうと素人の集団になってしまうという危惧がありました。でも、もしかしたら今ならオリジナルのおはやしをやっても「吉原っぽいよね」と言ってもらえる段階にまでなってきているかもしれない。

-そこがバンド、音楽の面白いところですよね。恐らく、ちょっとずつ演奏が変わっていったのではないでしょうか。もしかしたら将来、タイトルに「にくずし」と付いているのに、地元の人には「にくずし」に聞こえないといった現象が起こるかもしれない。音楽はそうやって豊かな表現を生み出していったのだと思うんです。

yas:アレンジを考える時に「にくずし」はちょっとゆっくりな曲、「おだわら」はちょっと速めのソリッドな曲という当てはめをしていましたが、その逆もありですね。「おだわら」を手数は多く、ゆっくりやってみたり。

-譜面通りに演奏しても違って聞こえる。

yas:同じ譜面で同じスピードで演奏していても、曲によってアクセントの付け方が変わったりします。例えば周りのパーカッションやリズムとぶつからないよねとか、ビートにドライブ感が出ていいんじゃないかとか、そうした判断で。

-おはやしを使った新しい表現を模索する一方で、このCDには「にくずし」「おだわら」のおはやしそのものも収録している。自分たちのルーツを示したいという気持ちがあったのですか。

内藤:残せる時に残しておきたいと思いました。

yas:おはやしの音源って、なかなかないんですよ。

内藤:うちの町内には、僕のおじいちゃんの代に(自分たちのおはやしの)レコードを作らせたらしい、という話が残っていますが、誰もそのレコードを持っていない(笑)。おはやしは時代ごとに少しずつ変化しているはずなんです。昔は各町内で同じおはやしをやってた可能性もあるけれど、今や同じ演目でも21の町内ごとに「なまり」があって、別々の演目といってもいいくらい違いがある。時代ごとにどう変わったかにとても興味があるんですが、記録が残っていない。

2025年5月31日、「FUJI&SUN」での演奏=富士市の富士山こどもの国


-このCDには2020年代半ばの「にくずし」「おだわら」の一つの形が記録されている。伝承の意味もありそうですね。単なるスキットではなく、しっかり時間を取って収録しています。

内藤:本当はもっと長くてもいい。今回は短くまとめたつもりです。おはやしは本来、山車を引きまわしている間ずーっとやるものだから。録音は本当の一発録りです。せーので録って1回で終わりにしちゃった。

yas:練習するほどのものでもないから。

-体に染みついているということですか。

内藤:手だれですからね。みんな。

-この作品、聴きどころを問われたらどう答えますか。

内藤:このバンドがお祭りあってのものだというのを、頭のどこかに置きながら聴いてもらうと面白いのではないでしょうか。そこから先は聴いた人がいろいろ解釈できると思います。

yas:太鼓と上物の掛け合い、融合ですね。おはやしのビートと曲のビートが共存している楽しさを感じてほしい。

-10年続けて自分たちなりに進歩した、変わったと思える点はありますか 。

yas:そもそもおはやしがうまい人が集まっているので、劇的に変化があったということはありません。ただ、持っている曲が(体に)染み込んだなという感じはかなりあります。

内藤:おはやしは子どもの時から何も考えずにやっていますからね。

yas:会話しながら、よそ見しながらでもできちゃう。

内藤:考えてやってないですよね。体が覚えているから。

<DATA>
吉原祇園太鼓セッションズの富士市でのライブが決まった。
■フジヤマフィーバー 
出演:MEGUMI MESAKU (THE TROJANS from UK)、THE SIDEBURNS、吉原祇園太鼓セッションズ
、SKA SHUFFLE(DJ)
日時:11月8日(土)午後6時開演
会場:吉原KICKERS(富士市吉原2-11-8 2F)
入場料:3000円(1ドリンク込み)
チケット予約:吉原祇園太鼓セッションズの公式サイト(https://yoshiwaragts.jimdofree.com/)

 

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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