【静岡市美術館 の「柚木沙弥郎 永遠のいま」展】「注染の森」は必見。101歳で制作したコラージュに、グランマ・モーゼスの面影を重ねた

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡市美術館で8月16日に開幕した開館15周年記念展「柚木沙弥郎 永遠のいま」を題材に。

2024年に101歳で亡くなった染色家・柚木沙弥郎(1922~2024年)の回顧展。静岡県民にとっては芹沢銈介の「一番弟子」的存在として紹介するのがいいかもしれない。今回展は染色作品を主軸に、版画、スケッチ、絵本、立体作品など、柚木の多面的な表現を一覧する。会場を巡れば、「こんなに何でもできる人だったんだ」という驚きが生まれることだろう。

個人的な見どころを三つあげる。一つは第1章における注染布の「森」だ。柚木の代名詞とも言える「注染」は1950年代半ばから取り組んだ型染の技法の一つ。型紙を使って天然のりを塗りつけた布を広げ、染料をじょうろのような機材で流し込む(技法の説明は、会場の映像資料が分かりやすい)。手ぬぐいや浴衣地を量産する技法だったが、柚木はこれを幅広い布に用いた。

今回展では、この作品を天井からつるようにして展示している。長さ4、5メートルの布の間から、別の布が見える。まさに森のようだ。裏表とも同じように色が入っている注染の特性がよく分かるし、北欧のテキスタイルメーカーのデザインとの共通性も感じられる柚木の色彩感覚の鋭さに圧倒される。

二つ目はやはり、静岡、特に芹沢銈介との関係。柚木は芹沢の型染カレンダーに引かれて、芹沢に師事することになったという。1945年に作り始めたこのカレンダーは1984年まで量産されていて、多い時には国内外に1万セットを頒布した。柚木は1947年に芹沢に弟子入りしているから、ずいぶん早い時期にこのカレンダーの価値を見いだしていたことになる。芹沢が亡くなった後も、弟子がデザインを再現し、手すき和紙製造「桂樹舎」(富山市)が手作業で製作を続けた。2025年版が最後の販売になる、と昨年9月7日付静岡新聞が伝えている。

見どころの最後は、柚木が101歳で制作した「最後の作品」とされるコラージュだ。手を動かして制作することは、柚木にとって生活の一部だった。それが全うできるだけの体力、そして創意があったことに驚く。

同じ静岡市美術館で2021年9~11月に開かれた「グランマ・モーゼス展」を思い出した。グランマ・モーゼスの愛称で知られるアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス(1860~1961年)の個展だったが、亡くなった年に描かれた「虹」が出品されていた。無理な気負いや気合いが感じられない、肩の力が抜けた筆致で、彼女が得意な田園風景をさらっと描いていた。

グランマ・モーゼスはこの時100歳。彼女も生活と制作が表裏一体だった。手を動かし続けることは、頭や意欲を動かし続けるのと同義なのだろうか。

(は)

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■静岡市美術館「柚木沙弥郎 永遠のいま」
住所:静岡市葵区紺屋町17-1葵タワー3階 
開館:午前10時~午後7時(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)
観覧料金(当日):一般1400円、大学・高校生と70歳以上1000円、中学生以下無料
会期:10 月13日(月・祝)まで

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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