【泥ノ田犬彦さん作「君と宇宙を歩くために」第6巻 】 「放っておく」ことを「良し」とする空気を描く。川根本町のなかかわね三ツ星天文台も登場

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は5月22日初版発行(奥付記載)の、泥ノ田犬彦さん(静岡県出身)作「君と宇宙を歩くために」第6巻(講談社)を題材に。漫画誌「アフタヌーン」が運営するウェブ漫画サイト「&Sofa」の連載作品。
(文=高度専門記者兼論説委員・橋爪充、写真=写真部・久保田竜平)

「底辺高校のヤンキー」小林は物事が長続きしない。転校生の宇野は、物事の同時処理が苦手で日常の行動をメモ化している。独り言が多い。そんな二人がなぜか意気投合。天文部に入り、二人そろって苦手な「適切なコミュニケーション」をそろりそろりと探っていく。

「マンガ大賞2024」で大賞に選ばれた本作を第1巻から追っていると、小林と宇野が互いの「切実さ」について、理解を深めていく様子が伝わってくる。第6巻は、関西地方への修学旅行が主体だが、旅館の5人部屋で、宇野はただ一人アイマスクをして早寝を決め込む。ルーティンを崩すと調子が悪くなるのだ。

小林を含む残り4人は、修学旅行の夜に大騒ぎしたい。だが、宇野の早寝を放っておく。相手のために「何かする」だけでなく、時には「何もしない」でいることも是。両者の間には、そんな了解が育っている。本作開始当初にはなかった関係性だ。

事態の好転ばかりを描いていないのが、本作の誠実なところだ。第6巻では、小林の幼なじみである朔ちゃんが、宇野に対して悪意をあらわにする。「お前ってなんでそんなにダルいの?」。朔ちゃんは小林に、宇野の絡みづらさを訴え、「あいつ絶対障害あるじゃん」とまで言う。

小林は宇野をかばうように「俺は?」と問う。「普通」からズレている「俺」。「基準」に達していない「俺」。こんな「俺」がここにいるのはどうなんだ。お前はどう思う? 朔ちゃんは答えられない。気まずさを照れ笑いに置き換え、その場を去る。

人間と人間はわかり合えない。ただ、わかり合おうとする意志によって、当事者以外にも変化が生まれる。朔ちゃんの宇野に向ける悪意はどう変わっていくのか。

第6巻の後半に、川根本町のなかかわね三ツ星天文台とウッドハウスおおくぼが出てくる。川根本町は、過去に環境庁(現・環境省)主催の全国星空継続観察で「澄んだ星空」の全国2位に選ばれたことがあり、多くの天文ファンが知る施設だ。

2025年3月から機器の不具合で休館していたが、漫画に出てきたので川根本町に電話してみた。すると「7月に復活する」との答え。「君と宇宙を歩く」場所として、再スタートを切る。喜ばしい。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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