【静岡音楽館AOIの「新しいAOIのガラ・コンサート 祝宴」】村治佳織・新芸術監督のお披露目演奏会。「皆さんと一緒に作っていく」AOIとは

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は5月30日に静岡市葵区の静岡音楽館AOIで開かれた「新しいAOIのガラ・コンサート 祝宴」を題材に。
(文と写真=論説委員・橋爪充)

2026年4月に静岡音楽館AOIの芸術監督に就任したギタリスト村治佳織さんが、同館の企画会議委員に名を連ねるサクソフォン奏者の上野耕平さん、ソプラノ歌手の幸田浩子さん、歌舞伎囃子方の田中傳次郎さんと共演。本年度から2年間、静岡音楽館AOIレジデンシャル・アーティストの称号を授けられたピアニスト大瀧拓哉さんも参加した。

まさしく、AOIの新時代の幕開けを強く印象づける内容。間宮芳生さん(2024年死去)、野平一郎さんに続く3代目の芸術監督就任を、演奏者と観客がそろって祝す、多幸感あふれる音楽会となった。

名刺代わりの「五者五様」の演奏を繰り広げた第1部に続く第2部は、極めて企画性の高い内容だった。喜怒哀楽の四文字を芸術監督と企画会議委員のそれぞれに振り分け、選曲と演奏を任せる。各奏者のセンスや遊び心が問われる試みだ。

音楽と感情表現に関する自らの考え方を披瀝する、もっと言うと「暴露」する機会になる。恐らく音楽家にとってリスクの高い企画でもあっただろう。観客にとってはぜいたくな時間である。

「喜」を担当した幸田さんはJ.シュトラウス2世の『春の声』を晴れ晴れと歌い上げ、「怒」の田中傳次郎さんは自らの太鼓に、長唄、笛を交えて長唄『船弁慶』から平知盛の亡霊が出現する場面を狂おしく演じた。

「哀」で続いた村治さんはJ.ロドリーゴの『アランフェス協奏曲第2楽章』を陰影豊かに弾き、「楽」を担当した上野さんはサンバのようなリズムも出てくるD.ミヨー『スカラムーシュ第1曲』などでにぎやかに締めた。

ステージの四隅に照明が据えられ、バレエ出身ダンサーの小★(かばねだれに「丸」)健太(こじり・けんた)さん、日本舞踊の藤間礼多さんが楽曲と完璧にリンクしたダンスを披露。小★さんは剛柔の動きを使い分けながら荒ぶる魂、「この世の春」を表現し、藤間さんは袖を振りながらのしなやかな足の運びで、性を超越したかのようなたおやかさを示した。

見ているうちに気が付いた。これは四者四様の「プロデュース作品」であると。和やかな雰囲気の中に、「われこそは」というアーティストの自尊心もあったに違いない。同じ条件下での「競い合い」。ただ、そこに分断はない。5人で合奏したアンコールの松本俊明さん作曲『Le Ciel ~ 空(パリ郊外)』は、融合を象徴するような演奏だった。

村治さんのソロに続いて、発声法が全く異なる幸田さん、田中さんの声が重なり合った瞬間、得も言われぬ高揚感が湧き上がった。「皆さんと一緒に作っていく」。村治さんが観客席に語りかけた言葉に、幾重もの意味が込められているように感じられた。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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