(文=論説委員・橋爪充 写真=SPAC提供)

2000年の「Shizuoka 春の芸術祭」に端を発するSPACにとって年間最大の催しは、2025年から「SHIZUOKAせかい演劇祭」という名称で実施している。今年の注目点は劇作家の石神夏希さんがアーティスティック・ディレクターという立場でプログラムに関わっていることだ。
「SPAC秋のシーズン2025-2026」に続く起用は、宮城聰芸術総監督の言う財団設立30周年を契機とした「SPACが社会に染み出す」フェーズ、「SPAC2.0」のフェーズを象徴するものと考えられる。
東南アジアの劇作家との交流プログラムがスタート
今回の演劇祭には、2026年から3年間行われる国際交流基金とSPACの共催事業「BIOTOPE(ビオトープ)」に関するプログラムも盛り込まれている。「変化するSPAC」の表れと言えよう。SPAC文芸部の前原拓也さん
石神さんとSPACの今後の展開を話している中で「ビオトープ」という言葉が出てきたんです。これまで舞台芸術公園について「作品を作る工場」といった捉え方をしていたが「作品が勝手に育ってしまう場所」にできないかという考え方です。国際交流基金から東南アジアと日本の文化交流についての話があり、石神さんが劇作家なので、劇作家を対象に何かできないかというところから話が始まって。石神さんはこれまで東南アジアで仕事をすることも多く、欧州のような整えられた劇場システムではないところから面白いものがどんどん生まれることを肌で感じている。そんな点をSPACとしても学んでいきたい、という趣旨で国際交流事業を行うことにしました。(発言は前原さん。以下、同)
アーティスティック・ディレクターに就任した劇作家の石神夏希さん(photo by Makita Natsumi)
マレーシア、インドネシア、フィリピン、タイ、カンボジアの5カ国から各1人、日本から2人の計7人の劇作家が交流しながら創作を深める。SHIZUOKAせかい演劇祭、2026年のインドネシア・ジョグジャカルタでの劇作家イベント、2027年のフィリピン・マニラでの演劇祭にも参加し、共に観劇、リサーチ、フィールドワーク、議論を行う。
2028年のSHIZUOKAせかい演劇祭で、 7人の作品のリーディング公演を予定しています。皆さん、それぞれの言語で書くのでドキドキしますが、新しいチャレンジとも言えます。日本の作品はSPACの俳優が入る予定です。
プロパガンダ映画の再演を試みる俳優たち『マライの虎─ハリマオ』
『マライの虎─ハリマオ』の一場面
SHIZUOKAせかい演劇祭2026にはBIOTOPEプロジェクトの招聘プログラムが2本、ラインナップされている。1本は4月25日、26日(静岡芸術劇場、午後1時開演)のアルフィアン・サアット台本、モハマド・ファレド・ジャイナル演出による『マライの虎─ハリマオ』。戦時中の日本で制作されたプロパガンダ映画『マライの虎』を、シンガポールと日本の俳優たちが舞台作品としてリメークを試みる。そのプロセスを追う、コミカルな演劇作品である。
第2次世界大戦中に作られたプロパガンダ映画は、日本人がマレー人をイギリスや中国といった敵国の支配から解放する、といった内容。そもそも問題が多い映画なんですが、それを再演する上で、誰がどの役を演じるのが政治的に正しいのかという議論があり、歴史認識の話にもなってきます。台本、演出のお二人はともにシンガポールの方。アルフィアン・サアットさんの面白いところは、こういう重たいテーマをにぎやかなコメディーとして描く点ですね。
BIOTOPEプロジェクトの招聘プログラム、もう1本は4月25日、26日、29日の各日(舞台芸術公園 稽古場棟「BOXシアター」、午後4時開演)のアイサ・ホクソン、ヴェヌーリ・ペレラの共同創作によるダンス作品『マジック・メイド』。
『マジック・メイド』の一場面(photo by Jorg Baumann)
フィリピン出身のホクソンさんとスリランカ出身のペレラさん、どちらも欧州でかなり売れているアーティストです。「マジック」「メイド」という二つの言葉が表す「魔女」と「メイド(家政婦)」という二つのモチーフが描かれます。 2メートル以上あるようなほうきを使ったパフォーマンスが見どころの一つです。フィリピンとスリランカはどちらもメイドをはじめとしたケアワーカーを別の国に「輸出」している国とのこと。二人は、自分の国を離れて住み込みで働くメイドたち、労働者へのリサーチを元に作品を作りました。
ブラジルルーツの県民を迎えた『うなぎの回遊 Eel Migration』
『うなぎの回遊 Eel Migration』の一場面(photo by Suzuki Ryuichiro)
SPAC名義の演目は2本。アーティスティック・ディレクターの石神さんが台本・演出の
『うなぎの回遊 Eel Migration』は4月25日、26日、29日の各日午後6時半開演で、会場は舞台芸術公園野外劇場「有度」。ブラジルにルーツを持つ磐田、浜松、湖西の各市の住民を主要キャストに迎え、それぞれから聞き取ったエピソードを舞台に盛り込んでいる。現実と想像が交差する「寓話的なフィクション」との説明がある。長い距離を旅して産卵、繁殖するウナギの生態を重ね、「生き延びること」「受け継がれていくこと」の意味を問いかける。
石神さんは新しい劇団を作るような感覚で取り組んでいますね。稽古を見に行くと、ブラジルルーツの方々とSPACの俳優やスタッフとで新しいコミュニティーが生まれたんだということがよく分かる。ブラジルルーツの方々のインタビューが作品の基礎を成していますが、SPAC俳優たちもかなり自分のことを開示しながら作品を作っているようです。そうしたフラットな関係性をユートピア的に目指している。作品の作り方として面白いなと思いますね。
駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場で上演するSPAC芸術総監督の宮城聰さん台本・演出による『王女メデイア』は5月2~6日の毎日午後7時から。1999年初演で、世界20都市以上で演じられた宮城聰さんの代表作の一つだ。静岡での上演は16年ぶりという。
『王女メデイア』の一場面(photo by Uchida Takuma)
古代ギリシャの子殺しの話を、明治時代の日本に舞台を置き換えて展開します。昨年、ロンドンで再演したときに、ゲネプロを静岡で見たのですが、(劇団)ク・ナウカ時代から何度も再演されている名作だけあってやはりすごかったですね。宮城さんがよく採用するスピーカー(せりふの語り手)とムーバー(演じ手)を分ける形式ですが、実に論理的。スピーカーは全員男性で、ムーバーの女性たちが動くという、その形式自体に意味を持たせる作品になっています。料理やトーク、音楽で各国文化を感じ取る
せかい演劇祭には作品上演だけでなく、各国文化のショーケース的なイベントもある。今年は特にそうした意味合いが強い。『うなぎの回遊 Eel Migration』の公演前後には、舞台芸術公演のせかいの劇場ミニミュージアム「てあとろん」に立ち寄りたい。「フェスティバルcafe & bar ― Festa Brasil(ブラジル・ナイト)」と題した、ブラジル文化を食と音楽で感じるイベントが用意されている(25、26日は午後3~10時、29日は正午~午後10時)。
( photo by Makita Natsumi)
DJも入り、SPACではあまり見ないような空間になるのではないでしょうか。フェイジョアーダやブラジルコーヒーを味わうことができます。アーティストも集まってみんなで交流できる場所にしたい。舞台芸術公園とJR東静岡駅を結ぶ無料チャーターバスも午後10時ぐらいまで出る予定なので、観劇後は皆さんに残ってほしいですね。5月2日正午からは、BIOTOPEプロジェクトの一環として「せかいの劇作家がふるまうランチ会」が舞台芸術公園 せかいの劇場ミニミュージアム「てあとろん」で開かれる(参加費1000円、要予約、定員30人)。プログラムに参加する東南アジアや日本の劇作家7人が生まれ育った国や地域の料理を食べながら、彼らのご飯にまつわる思い出や活動についての話に耳を傾ける。
7人に自分の思い出の食事のレシピを提出してもらい、それを再現して作ってお客さんに提供します。今回の演劇祭ではBIOTOPEに参加するアーティストと触れ合える唯一の機会なので、食事と共にぜひ楽しんでほしいですね。
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■「SHIZUOKAせかい演劇祭」その他の演目
▼『Qui som(キ ソム) ?─わたしたちは誰?』(カミーユ・ドゥクルティ、ブライ・マテウ・トリアス作)
公演日:5月3日(日・祝)、4日(月・祝)、5日(火・祝)、6日(水・休)
開演時間:午後1時
会場:静岡芸術劇場
▼下島礼紗×SPAC新作ワーク・イン・プログレス『さあ環境に抵抗しよう、死に抵抗しよう。そうさ生に抵抗するのさ、』
公演日時:4月25日午後4時半、26日午後4時半、29日午後1時半
会場:舞台芸術公園 屋内ホール「楕円堂」
※各演目の料金、チケット予約などはSHIZUOKAせかい演劇祭特設サイト(https://festival-shizuoka.jp/)を参照









































































