【浜松市秋野不矩美術館の所蔵品展「創造の眼Ⅳ~ 天眼~」 】「姉妹」の女性二人が表す「伝統」と「革新」

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は浜松市天竜区の浜松市秋野不矩美術館 で11月22日に開幕した所蔵品展「創造の眼Ⅳ~ 天眼~」を題材に。

秋野不矩の代表作の一つ「姉妹」(1946年)が、白い漆喰の壁で囲まれた第2展示室に置かれている。左手にはこの美術館が開館した時に90歳の秋野が制作した「オリッサの寺院」(1998年)。インドの寺院のイメージを頭の中で構築した幅約7メートルの大作は、秋野特有の黄色や深い橙が際立つ。一方の「姉妹」は2曲一隻の屏風に、和装の女性二人が描かれている。

秋野不矩「オリッサの寺院」


「姉妹」は1948年に上村松篁らと「創造美術」を結成する直前の時期の日本画。一方、「オリッサの寺院」は1962年にインドの大学に客員教授として招かれたことを発端にした、秋野の「インドシリーズ」の集大成とも言える一作だ。インド東部オリッサ州の三つの寺院を組み合わせ、現実にはない景色を現出させた。

同じ空間で両作品を見比べると全く異なる作風に見えるが、「日本画の革新」という終生のテーマを明確に表すという点で共通している。

「オリッサの寺院」は言わずもがな、インドの風景や人々を題材にするという、モチーフの斬新さが一目瞭然だ。幅7メートル、高さ1.2メートルという極端に横長の画面も、秋野の過激な魂によるものだろう。

秋野不矩「姉妹」


さて一見端正な日本画に見える「姉妹」はどうか。作品のキャプションで指摘するように、左右の女性にそれぞれ「伝統」と「革新」の意味を込めている。帯の描き方が違い、左扇は平面的、右扇は立体的である。

今回展ではこの作品の下絵も出品されているが、「姉妹」の右扇の女性の左手に注目してほしい。当初は膝頭に重ねられているが、完成作では手を広げて腰の横に置き、少し体重を預ける格好になっている。姿勢が崩れると同時に、左扇と比べると全体がほんの少しだけ動的に感じられる。

当時の秋野の考えがどうだったかは分からない。ただ、日本画の価値を損ねることなく、「型」を少しだけ崩すという、解きほぐすのが難しい問題に取り組んでいたことははっきり伝わった。

(は)

<DATA>
■浜松市秋野不矩美術館「創造の眼Ⅳ~ 天眼~」
住所:浜松市天竜区二俣町二俣130 
開館:午前9時半~午後5時
休館日:月曜、年末年始(12月29日~2026年1月3日)
観覧料(当日):一般(大学生・専門学校生を含む)310円、高校生150円
会期:2026年1月12日まで

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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