【池田20世紀美術館の「KENJI SHIGEOKA 開館50周年記念 重岡建治展」】10代後半の一刀彫実演で生まれた「シカ」に、若きアルチザンとしての姿を見た

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は伊東市の池田20世紀美術館で2026年1月13日まで開催中の「KENJI SHIGEOKA  開館50周年記念  重岡建治展」を題材に。

北京市新日本大使館の「家族」ひな型(ブロンズ、2008年)


ことし2月24日に89歳で亡くなった重岡建治さんの個展。木彫、ブロンズ、スケッチ、アクリル画など75点が並ぶ。多くは美術館近隣のアトリエから運び込まれている。

美術館の伊藤康伸館長によると展覧会は「追悼」の意味を込めたものではなく、重岡さんが存命中の4年前に企画されたという。美術館の50周年と本人の米寿(88歳)を祝う、というのがコンセプトだった。

「重岡建治展」の展示風景(伊東市の池田20世紀美術館)


展示室には長い長い時間が流れている。最新作は2022年のレリーフ「和」。一方、一番古い作品は1954年の小さな彫像「シカ」だ。4頭が顔を寄せ合うようにレイアウトされている。

当時重岡建治さんは18歳。満州から引き上げた重岡一家は熱海市の山中に開拓民として入植したが、建治さんは日本各地の路上でウグイスの笛や、シカの置物を彫って金を稼いでいた。一刀彫実演は全国各地で人気を呼び、建治さんが一家の家計を支えていた。

この話は2017年に私がインタビューした際に、本人が口にしていた。今回、初めてその際の「成果物」を目にした。体から首、顔にかけてのなだらかな線が美しい。圓鍔勝三さんに弟子入りする前だから、独学だったはずなのに、確かな技巧を感じる。

横には広島の宮島で一刀彫実演を行う建治少年の写真があった。たくさんの大人の視線が集まる中、小さな彫刻刀を動かしている。目の前には完成したシカの像がずらりと並んでいる。

「手を動かして稼ぐ」というアルチザン(職人)的な行為から出発した少年は、彫刻家として人生を閉じた。一刀彫実演時代以降の70年、日本の高度経済成長の中で公共彫刻のニーズが高まり、各地に作品を残した。重岡さんの生涯は「戦後日本」そのものだったとも言えるかもしれない。

(は)

<DATA>
■池田20世紀美術館「KENJI SHIGEOKA  開館50周年記念  重岡建治展」
住所:伊東市十足614 
開館:午前9時~午後5 時(水曜休館、12月24日、31日開館)
観覧料金(当日):一般1000円、高校生700円、小・中学生500円
会期:2026年1月13日(火)まで

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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