​【沼津市庄司美術館(モンミュゼ沼津)の「紙の、えほん 駒形克己展」】 昨春亡くなった沼津出身のデザイナーの回顧展。「幅ゼロ」の線の美しさ

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は沼津市の沼津市庄司美術館(モンミュゼ沼津)ので8月9日に開幕した特別展「紙の、えほん 駒形克己展」を題材に。

2024年3月に70歳で亡くなった沼津市出身の造本作家、デザイナー駒形克己さん(1953~2024年)の回顧展。1990年代に販売を開始した「POP SCOPE」シリーズ、2023年に無印良品の店舗向けに制作した「REAL in SIMPLE」シリーズをはじめ、グラフィックデザイナーとして関わったファッションブランド「ZUCCa」「Comme des Garcons」のグラフィックワーク、安全地帯やオフコースのレコードジャケットなど、駒形さんの多様な仕事ぶりを総覧する。

モチーフとなった動物を極限まで抽象的にビジュアル化する描写力、技術に目を見張る。そして、どの作品も線のエッジが立っている。駒形さんの場合、「線」というのは多くの場合色と色の境界線である。紙の上に別の紙を置くことで線が生まれる。

切り絵的に見える場合も、そうでない場合もある。ただ、「線」のきっぱりした感じは変わらない。手に鉛筆や絵筆を握ってストロークした線とは明らかに違う。いい意味で線に「意志」が込められていない。輪郭を示したり、領域を切り分けたりするためだけに存在する線。それなのに見る側はこの「線」の魅力に取りつかれる。

1980年代の乳児向けカード絵本シリーズ「LITTLE EYES」がとても興味深い。正方形の白い表紙の中央に円や四角形があって、そこから後ろにある紙の赤や緑がのぞいている。色の付いた紙の上に穴の開いた白い紙を重ねてあるだけなのだが、とても美しい。円形にくりぬいてあるのだが、これも線が際立っている。

動物を描いたシリーズもそうだ。線という線が「細い」「太い」から解き放たれている。本展の見どころは、「幅ゼロ」の線の美しさである。

(は)

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■沼津市庄司美術館(モンミュゼ沼津)「紙の、えほん 駒形克己 展」
住所:沼津市本字下一丁田900-1 
開館:午前10時~午後5時(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)※9月16日は休館
観覧料金(当日):一般200円、小中学生100円(市内の小中学生無料)、障害者手帳を提示した人と同伴者1人は無料
会期:9 月28日(日)まで

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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