
乾さんは1月に書籍「ことばのまわり 10年目を歩く」(荒蝦夷)を発刊し、3月には地元で刊行記念展を開いたばかり。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生から10年目の2021年に計7回、福島県を訪れた「旅日記」である「ことばの-」の作品の記憶がいまだ鮮明なうちに、自身のキャリアを振り返る個展に挑んだ。さぞや準備がたいへんだっただろう。
さまざまなクリエイターが、時間の経過と共に表現を変えていくのは、不自然なことではない。むしろ、変わらない方が珍しい。現在は社会や観覧者を巻き込むアートを得意とする乾さんも同様で、30年前の作品はキャンバスを支持体にした平面が主体だった。


キャンバスのオブジェクトも、巻物の線も、恐らく特定の対象を描こうとはしていない。だが、帆布や紙に固着されまいとする、動的な作用が強烈に感じられる。それは、スケッチブックに描かれた無数のドローイングにも共通する。

乾さんの作品をたくさん見てきたつもりだったが、こうした視点を得たのは初めてだった。そうか。首尾一貫しているのは「動的な作用」か。
(は)
<DATA>
■静岡カントリー浜岡コース&ホテル(3階カルチャーフロア)「乾久子展 ~n次元の世界~」
住所:御前崎市門屋2070-2
開廊:午前11時~午後6時(月・火曜休廊)
観覧料金:無料
会期:8月3日(日)まで