​【鈴木彩さんのCD「WINGED SEEDS」】 ビブラフォンのふくよかな音が心のひだに染み渡る

静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は、2024年6月発表の打楽器奏者鈴木彩さん(ベルギー在住、沼津市出身)の初CD「WINGED SEEDS」を題材に。

2月に沼津で里帰りライブを行った鈴木さん。ベルギーの老舗レーベル「KRAAK」からの本作は何度も演奏したというカバー3曲と、この作品のために作曲した3曲、計6曲が収録されている。

タイトルは日本語訳で「翼果(よっか)」。羽のような形をした種子を指す。アルバムに寄せた文章で鈴木さんは「風をつかまえ、できるだけ遠くへと自身を運ばんとする強い意志を持ったこの種子の名前が、私の最初のアルバムのタイトルにぴったりだと思いました」としている。

10拍のループが微妙に変化しフィードバックのような音が重なる「Leaf Vein」、頭に強い音がある八分音符のループから音が水紋のように広がっていく「Bird's Eye」は、どちらもビブラフォン1台の演奏。

オリジナル2曲に続く「To The Earth」はライブでは四つの植木鉢をたたいていた、米国の音楽家フレデリック・ジェフスキー のカバーだ。音源では音程の異なる空き缶のような音がする。聴きようによっては東南アジアの金属製打楽器のようにも。

アルミニウム製のマレット楽器「アルフォン」が澄明な音空間を作り出す「FIGMENT」、米を落とす音を取り込んだエリック・グリスウォールドのカバー「SPILL」と進み、最後は鉄板にアルミ箔を巻くなどした「プリペアード・ビブラフォン」による「LU」で締めくくり。

耳をスピーカーに集中させているうちに、音の中に耳が取り込まれていく感覚があった。ビブラフォンのふくよかな音が心のひだに染み渡る。さまざまな実験と寛容さが詰め込まれた1枚だ。

(は)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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