雛祭り、 “天神さん”を飾るのはなぜ?「駿河雛人形」のルーツでもある天神人形の歴史を紹介

シミズ毎日
3月3日は雛祭り。静岡県中部地域(大井川から富士川の間)では雛祭りの日に「天神さん」と呼ばれる天神人形を飾る風習があります。天神人形は静岡の伝統的工芸品「駿河雛人形」のルーツと言われています。静岡市清水区由比で代々、駿河雛人形製作を営む望月勇治さん(望月人形)に天神人形の歴史を伺いました。

駿河雛人形の由来と言われる練天神

天神人形は平安時代の学者、菅原道真をかたどった人形。江戸時代になると学問の神様として広く親しまられ、全国各地でさまざまな天神人形が作られます。明治時代に志太地方(焼津市、藤枝市周辺)では桐の粉と生麩粉を型に流して固めた「練天神(志太天神)」が作られました。練天神を製作したのが、大井川町(現焼津市)に住んでいた青野嘉作氏。嘉作の親が農家の副業として人形作りを学ばせようと考え大阪方面から職人を呼び、技術を習得させました。この「練天神」が、駿河雛人形の由来と言われています。

江戸時代末期頃の練天神(志太天神)。作品全体が桐塑(桐の粉と生麩糊を型に流して固めたもの)で作られています。胸と袖には三階松、袴には市松文様が丁寧に描かれています。(望月人形提供写真)。
 

その後、弟子の大須賀芳蔵氏が布の衣装を着せた「衣装着天神人形」を製作。この衣装を着た「衣装着天神人形」は、全国的にも大変珍しく、ここ静岡のみの人形です。

ビロード天神。ビロード天神は布の衣装を着た「衣装着天神」の初期の人形。衣装を「ビロード(別珍)」と呼ばれる布を使用して作られていました。写真の人形の衣装には菅原道真が愛した梅の花が刺繍されています。
 

桃の節句に飾るようになったのは茶どころ静岡ならではの理由が

天神人形は「男の子のお雛様」として男児誕生の祝いに贈られました。一般的に男児を祝うのは5月の端午の節句。ちょうど茶農家にとって新茶摘みの農繁期です。そのため静岡では桃の節句の日に内裏雛と天神人形を一緒に飾り祀り、子どもの成長を願いました。

駿河雛人形の特徴は、人形の胴体に稲わらを束ねた太い「わら胴」を使用すること。また、衣装を上半身と下半身別々に作るのも駿河雛人形ならでは。衣装全体にボリュームを持たせ、衣装をより華やかにみせます。

駿河雛人形(内裏雛)。天神人形の技術を生かして製作されています。
 

女雛の胴体部分だけでも使用されるパーツは100以上。一つ一つ手作業で組み立てられ、望月さんたち人形師はミリ単位の調整に気を配ります。「歴史や物作りの背景を知ると、雛人形の奥深さを感じられます」と語る望月さん。春の訪づれを告げる雛祭り。そこには受け継がられてきた職人の技術と美しい人形を届けたいという思いが込められています。

シミズ毎日は清水オリコミが発行する地域の身近な話題と暮らしに役立つ情報をお届けする情報紙です。

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