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河治良幸

サッカージャーナリスト河治良幸

“元静岡学園10番の競演” 伝統の一戦で鹿島アントラーズ松村優太が後輩のジュビロ磐田・古川陽介から感じ取ったもの


ジュビロ磐田は鹿島アントラーズとのアウエーゲームに臨んだが、奮闘およばず1−0で敗れた。磐田にとっては悔しい結果となったが、後半16分から左サイドに投入された古川陽介は何度も良い仕掛けを繰り出して、鹿島のディフェンスを脅かした。

「前線に(ジャーメイン良とマテウス・ペイショットの)ツインタワーが入って周りがどう動くかが整理されて、うまくボールが回るようになってると思う。いい感触がありました」

古川は後半24分にレオ・ゴメスがセカンドボール拾った流れから、左サイドで前を向いてボールを受ける。そこからターンを駆使して、外側で対峙する右サイドバックの濃野公人を中に破り、インサイドで待ち構えていた松村優太のマークも中に外して、右足でゴールのファーサイドを狙う。

しかし、惜しくも弾道はゴール右に外れてしまった。ちょうど磐田のゴール裏サポーターに向かっていく軌道だっただけに、アウエー側が最も沸き、外れた時の「ああ〜っ」という反応もメーンスタンド上段の記者席にまで伝わってきた。

「自分のドリブル突破も良くなってきて、枠に流し込むような球を意識していた。ここっていうところに蹴った感触があった。そこは自分の課題。全部がうまくいくとは思っていない。まだまだ上を向いてやるしかないと思います」

松村「今日だけ見ると一番怖かった」

好機に絡んでいた古川を最も脅威に感じていた一人が、静岡学園の先輩である松村かもしれない。後半のスタートから右サイドに入っていた松村は、実際にこのシュートシーンに象徴されるように、濃野と協力して古川の対応にあたりながらも、かなり苦しめられていた。ただ、鹿島がリードしている状況で鋭く縦に仕掛けて、後ろの濃野ともに古川を守備側に回すシーンもあった。

マッチアップした磐田の古川(右)と、鹿島の松村。元静岡学園10番同士の対決


「お前しんどいから仕掛けんなよとは言いました(笑)」

そう笑顔で振り返る松村は古川について「怖い選手ですよね。どう考えても、彼がジュビロの選手で、今日だけ見ると一番怖かった」と語り、古川にはここから出場時間が増えるんじゃないかと伝えたそうだ。

かくいう松村も、開幕戦はベンチ外だったところから何とかアピールを続けて、代表ウイーク前の川崎戦で、ようやく終盤に今シーズン最初の出番を得ている。今回は2年後輩の古川より早い時間に出て、しかもチームの勝利で面目を保つ格好となったが、古川の姿勢は松村のハートにさらなる火を灯したようだ。

「今日なんかは特に、名古(新太郎)選手も出てたし、シズガクの10番が3人も出てたんですよ(笑)。そうやってお互いが高め合っていけばいいと思う。古川くんのああいうカットインだったりクロス、シュートは武器だと思うし、俺も負けないように頑張りたい」

鹿島の名古(30)も元静岡学園10番

松村は3月のU-23日本代表メンバーから外れたが、もちろんパリ五輪の本番、さらに言えば最終予選の招集すらも諦めていない。そんな松村にいつか2人で日の丸を付けることへの思いを聞くと「彼(古川)はA代表を目指すだろうし、それは僕も」と返ってきた。

「切磋琢磨して、いつか同じ舞台でプレーしたら、同じシズガク出身でお互い分かり合えるところはあると思うので。そうなったら一番いいと思うし、お互い頑張りたい」

そのためには松村も古川も、後半途中に出てチームに勢いを与えるだけでなく、スタートからチームの攻撃を引っ張っていくような存在になる必要がある。今回は途中出場という立場でお互いが相手の脅威になったが、次に磐田のホームゲームが行われる8月11日に、2人がどういう状況になっているか。

もしかしたら松村は遠くフランスの地で、磐田と鹿島による第2ラウンドの前日に、パリ五輪の決勝の舞台に立っているのかもしれないが、そうした可能性も含めて、2人の”シズガク10番”のチャレンジを楽しみに見守っていきたい。

シズサカ シズサカ

タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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