
2022年度は3年ぶりに1億人突破
(山田)今日は観光の話題ですね。コロナ禍前に戻ってもらわなきゃ困るという状況ですけども、徐々に戻りつつあるんでしょうか。(橋本)そうですね。静岡県の調査によると、2022年度の県内の観光宿泊施設などの集客数にあたる観光交流客数は1億2482万人で、前年度比29.9%増加しました。コロナ禍前の2019年度と比べると84.8%まで回復し、3年ぶりに1億人を超えました。
新型コロナの感染症法上の位置づけが5類に移行し、行動制限がなくなったのが今年の5月ですので、2022年度の数字はそれより前の段階になりますが、その時点で既にコロナ禍前の8割以上までは観光客数が回復していたことが示されたということになります。
旅行消費額は前年度比で34.6%増の6800億円。2019年度比では96.4%でした。観光客が戻ったのは8割ぐらいまでなのに、お金の面では9割以上。そこの差は何かというと、宿泊費の補助などの観光活性化策を実施したので、その分が上乗せになったのではないかとみられます。
(山田)僕も夏にいろいろなところに行きましたけども、観光客が戻ってきてるなというのをすごく感じました。
(橋本)地域経済にも大きなインパクトになっているんじゃないかなと思います。
(山田)コロナ禍前と比べてっていうところですかね。
(橋本)まだ完全に戻ってない要因の一つというのは中国人の観光客じゃないかと思います。コロナ禍前は中国人が県内の外国人宿泊客の7割を占めていました。中国は長くゼロコロナ政策をやっていて、国外に人が出て行かないという状況がありました。2022年の12月にその政策が終わりましたが、日本への団体旅行はしばらく解禁していませんでした。
それが解禁されたのがこの間の8月の上旬。つまり2022年度は中国人の皆さんの数字は乗っていないので、それがこれから加わってくると、コロナ禍前まで回復した、あるいはコロナ禍前よりももっと大勢の皆さんが海外から国内に訪れたということになるかもしれません。
(山田)静岡空港も中国上海便が再開されますね。
(橋本)先月末に県が発表したところによると、運休が続いていた静岡空港の中国上海便が9月24日に再開されるとのことです。3年7ヵ月ぶりになります。中国での団体旅行の解禁によって需要が見込まれるという判断をしたということじゃないかと思います。
回復の鍵は中国の政治・経済情勢
(山田)中国人観光客がまた来てくれると、コロナ禍前に戻るんじゃないかというところですね。(橋本)ただ、中国の観光客については懸念事項もあります。1つは東京電力福島第1原発の処理水の放出の影響です。中国国内での対日感情というのが悪化していて、団体旅行のキャンセルが相次いだというような話も報じられています。
今、台湾問題などで中国と日米の関係が悪くなってます。処理水の話は対立する日本政府への外交カードとして使ってるという側面があるので、中国政府がこれからそれを緩めていくのか、あるいは強硬な姿勢を貫いていくのかということによっても、中国の皆さんが日本に来るかどうかという状況が変わってくるのではないかと思います。
(山田)そうなんですね。ほかにも懸念材料はあるんですか。
(橋本)もう1つが先行き不透明な中国の経済情勢です。ゼロコロナ政策を終えて経済を回そうと転換したんですが、まだ思うようには回復していません。特に中国のGDP(国内総生産)の4分の1を占めると言われている不動産市場が低迷しています。
(山田)中国バブル崩壊とも言われていますね。
(橋本)不動産大手の中国恒大集団とか、碧桂園(カントリーガーデン)の経営が行き詰まり、恒大集団がアメリカで破産法の申請をしたというようなこともありますので、ちょっと経済がどうなのかなと。若者の失業率も非常に高く、それを巡って政府への批判も出始めてるようです。その不満解消のため日本への団体旅行を解禁したという説もあります。
“爆買い”はもう起こらない?

(山田)経済の先行きが不透明だからこそ日本に観光客が来るかどうかは分からないということなんですね。
(橋本)景気が後退すると、財布の紐は堅くなりますよね。旅行に行くにはお金がかかりますから、それを止めたり期間を短くしたりということもあるかもしれません。
(山田)2017年、18年に団体で来て家電量販店で“爆買い”していたようなことはまだ起きないかもしれないということですか。
(橋本)中国人の皆さんが観光に戻ってきたとしても、前みたいに爆買いしてくれるかはわからないですね。
(山田)静岡新聞には県内の今年上半期の宿泊客数も出てましたね。
(橋本)はい。2023年の上半期は前年同期に比べて20%増加したという記事も掲載しました。このうち日本人の宿泊客が900万人弱で、前年同期比15%増。外国人は12倍で40万人ほどでした。2019年の上半期と比べるとまだ85%ということです。
今後、中国からのお客さんが回復することによってコロナ禍前に近づく可能性はあるんですが、先ほど申し上げたような理由で期待通りにいくかどうかはちょっとわからないですね。
(山田)もう中国人観光客にはあまり期待しなくてもいいんじゃないすかね(笑)
(橋本)政治的な問題もありますし、お客さんがたくさん来ることによって観光地に不都合が生じるオーバーツーリズムの問題もあります。ただ、そうは言っても隣国ですし、中国の皆さんも日本への旅行が好きだということがあります。来ていただけるのでしたら、歓待して良い思い出を持って帰ってもらうという日本の観光業の努力も大切だと思います。
(山田)一方で、日本国内では円安の影響もあって、海外旅行よりも国内を楽しむという流れが生まれているという話も聞きます。それはすごくいいですよね。
(橋本)経済という面ではいいと思います。ただ、日本国内も物価が高くなっていて宿泊費の負担が大きくなっているとは思います。
(山田)観光業がコロナ禍の前のように戻るには中国の力は大事ですけども、世界経済、世界情勢を見ていかないといけないというところですね。今日の勉強はこれでおしまい!