クラフトジンとは?
牧野:まずはクラフトジンについて教えてください。一家:ジンは穀物を主な原料とする蒸留酒です。37.5度以上のアルコールに、ジュニパーベリーと言われる果実の実を加え、さらに風味付けに様々な植物由来のボタニカルを加えて造ります。シンプルだからこそ参入しやすいという側面があります。また加えるボタニカルによって特徴付けが多岐にわたるので、地域性を出しやすい側面もあるかと思います。
牧野:では静岡の名産品もそこに加えることもできるんですね。
一家:静岡のボタニカルとして、ワサビやお茶、柑橘を活用し、静岡の特色を出した製品を生み出すことができます。
牧野:ワサビのジンなんて素敵ですね。若者うけもしやすそうですね。
一家:日本酒や焼酎に比べるとファッション的な要素があるので、若い人にとってはすごく馴染みがあるのではないかと思います。
牧野:構想のきっかけを教えてください。
一家:メンバーは”静岡の魅力をもう少し面白い形で伝えたい”という思いを持った、生まれも育ちもバラバラな8人が、偶然つながったというような感じです。静岡は、日本一高い富士山から日本一深い駿河湾まであり、地理的に魅力的です。また生態系も豊かで特徴的な農林水産物も豊富に存在します。その資源をもっと有効活用し、静岡の魅力を世界にアピールしていきたいと考えて、ジンを作ってみようと思いました。
牧野:私も初めてジンの作り方を知ったんですが、ジュニパーベリーについて教えて下さい。
一家:樹木に生える紫色の果実です。原産は北マケドニア地方で、現在国内で作ってるジンのほとんどは輸入に頼っています。しかし、静岡の風土や土壌、気候を活かしたジンを造るために、このジュニパーベリーの栽培自体も静岡市内で取り組んでいます。
研究者視点を取り入れたジン造り
牧野:これが大学発のプロジェクトだと言うから驚きです。どういう特徴があるんでしょうか?
一家:私はお茶の研究をやっていますが、その知見を生かし、ジュニパーベリーの栽培技術の効率化や、もう少し環境に優しい栽培をするといった高度化を測れるっていうことが特徴です。また味や香りといった成分の分析技術を持っているので、データを蓄積し、製品の特徴を明確化、差別化できることが強みです。
牧野:社名に秘密があるんですよね。
一家:実は元々「葵ジン」で考えていたんですが、頭文字がAとGになるんです。理系の研究をやってるとAとGで、DNAの塩基配列の頭文字のアデニンとグアニンを連想してしまいます。そうなるとシトシンとチミンのCとTをどうしても加えたいなと思い、クラフトテクノロジーをつければ、それっぽい社名になると思い、ちょっと遊んでしまいました。略してAGCTと自分たちで呼んでいます。
静岡発の唯一無二の味が実現するかも?!

牧野:研究者だけではなく、いろんな分野のメンバーが加わってらっしゃるんですよね。
一家:農家さんや飲食業の方、 さらに実は役員の中に学生がいるんです。大学生にも会社の経営に携わってもらおうと考えています。
牧野:ちなみに現在ジンの製造はどのような形で進んでいるんでしょうか。
一家:素材の開発が一番重要です。本物の素材にこだわるという意味でも、ワサビの生産者の方にも入ってもらっています。大切な素材をたくさん探していきたいということもあり、農家さんにはたくさん参入していただきたいと考えています。
牧野:いつ頃、街で飲めるようになりそうですか。
一家:現在まだ酒造免許を取得していないので我々自身が作ることはできません。免許を申請している状況で、早ければ2023年5月には製造を開始していきたいなと考えています。
牧野:どんな味のジンにしていこうと考えているんですか。
一家:やはり尖ったものを作りたいと考えています。素材の特徴を最大限に引き出した、これまでにないものを作っていけたらいいですね。ジンは西洋の酒なので、洋食との相性が抜群にいいんです。しかし素材をワサビのような和のものにすることによって、和食とのマリアージュができるような製品を作っていきたいです。
牧野:今年発売ということで、今話題の徳川家康公をかけるような案もあるのですか。
一家:実は、静岡を代表する料亭である徳川慶喜公屋敷跡「浮月楼」の方にも入っていただいて、そこに蒸留器を設置しようかなと計画しています。
牧野:いろんなことを考えてらっしゃいますね。今後の計画はどのように進んでいくのでしょうか。
一家:地域の農産物を有効にしたいという思いで、地域との関わりを大切にその地域の方と一緒にこのプロジェクトを盛り上げていきたいなと考えています。賛同者を絶賛募集中です!!
牧野:興味を持たれた方、連絡を取ってみてください。また新たに静岡名物が誕生するかもしれませんね。今日は興味深い話をありがとうございました。
今回お話をうかがったのは……一家崇志さん
静岡大学農学領域応用生命科学科准教授。Aoi Gin Craft Technology株式会社代表取締役を兼任。植物栄養学と植物分子遺伝学が専門。大学では生命科学や分析化学も担当。お茶やワサビといった静岡の特産物を研究材料として取り扱う一方、いろいろなことにチャレンジ中。
研究室HP (https://wwp.shizuoka.ac.jp/plantfuncphys/),AGCT公式HP (https://aoi-gin.com/)