磐田で97年も前から「アブラナ科」だけを専門に品種開発している会社!?
カメラマンの望月やすこさんに、取材中に出合った身近にあるけど、「へ〜〜」な求人情報を紹介してもらう本企画。今回は、磐田市にある「増田採種場」をご紹介いただきました。
プチヴェール
望月:増田採種場の話の前に、今回なぜこの会社に行きたくなったのかについて話させてください。10年くらい前、取材でお邪魔したバラ農家さんに、すごくオシャレで素敵なバラがあったんです。海外から苗を輸入して栽培してるのかなと思ったら、「自分たちで品種開発して、何年もかけて作ったバラなんです」と! その話を聞いてから、品種開発に興味を持つようになって。品種開発をやってる会社を探していて、増田採種場を見つけました。今回は、専務取締役の増田秀美さんにお話をうかがいました。増田採種場は、磐田市で97年も前から「アブラナ科の野菜だけを専門に品種開発している会社」なんです。アブラナ科というのは、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ、ケールなどがそう。このアブラナ科野菜の「育種研究開発」「種苗と野菜の生産販売」「品種開発受託」「通信販売」をしています。要するに、アブラナ科野菜の品種開発から販売まですべてを行っている会社です。
97年も研究開発してるから、増田採種場が開発したキャベツだけでも、品種が100種類以上あるんです。日本中の農家で増田採種場のキャベツを生産してるから、実は知らないうちに増田採種場のキャベツを食べているかもしれないんですよ!

交配
じゃあどうやって品種開発するのかというと、遺伝子組換じゃなくて、ミツバチと人の手による地道な掛け合わせでやっているそう。例えばバラの場合、花びらにちょっと青い部分が出たバラを見つけたらその交配を繰り返すことで、青が占める割合を増やしていき、青いバラに近づける作業をするんです。増田採種場には、そういう野菜の成長のちょっとした違いを見つけられる、野菜のトップブリーダー(交配のトップ技術者)が4人もいるんですよ! それでも1つの品種を開発するのに10年はかかるのだそう。だから、10年先の未来を見越して野菜を作らないといけないんですって!
原口:10年後のニーズがどうなっていくのか予測した上で作るんですね。
望月:大変なことだと思うのですが、これがまた大成功しているんですよ。わかりやすいように年代別に話しますね。
1970年代(高度経済成長期)
産めよ増やせよ、よく働いてよく食べろの時代は、生産者が作りやすいものを作る。野菜を大量に作りたいから、「病気にならない、暑さ寒さに強い」野菜が好まれた。1980年代(東京ディズニーランド開園の頃)
作り手側から食べる側のことを考えた野菜需要への変換期。作りやすいだけじゃなくて、食べる人が「美味しい」ものを作るようになる。1990年代(向井千秋さんが日本人女性初の宇宙飛行士として宇宙に行った時代)
働く女性が子育てしやすい、「身体に良くて、機能性が高いもの。カンタン」で「可愛く」て「栄養がある」ものが好まれた。90年代に増田採種場はピンポン玉くらいの、芽キャベツの花が咲いたようなかわいい野菜プチヴェール(1枚目の写真)を開発しているんです。カルシウムも多いうえに、子供のお弁当を作るときに、お湯に入れて茹でればそのまま弁当に入れられるんですよ。「可愛くて、カンタンで、栄養がある」ひとくちサイズの野菜が、パッとお弁当に入れられる。この開発の成功はすごいことじゃないですか!?
原口:技術もそうですが、未来を予見しているところがすごいです!
望月:プチヴェールにはさらに優れているところがあるんです。芽キャベツの仲間だから、1つの茎に小さな卓球の球みたいな形状でいくつもできるんです。ブドウがあの形のまま地面から生えてるような感じ。1粒づつ収穫するので、収穫もラク。つまり、女性でも収穫しやすいから、農業にも女性が大進出できる! 常に10年後の未来を想像して品種開発してるんです。私、原口さんくらいの歳のころ、10年後の未来なんて想像したことなかったですよ(笑)。
ほかにも面白い品種をいくつか教えてもらいました!
えのきブロッコリー

普通のブロッコリーって、使うときに枝分かれしている部分に沿って包丁でタテに切って、硬い部分をのぞいて使うじゃないですか。それがえのきブロッコリーは、アスパラみたいに1本1本になっているのが束になったような形だから、えのきみたいに、下の部分を切ると、それだけで全部がバラバラになってすぐに使えるんです。もちろんこれも遺伝子組み換えではなく、ミツバチと人の手による交配で丁寧に作られています。
お好み焼き用キャベツ

左上から時計回りに「あきおこ」「ふゆおこ」「はるおこ」「なつおこ」
望月:用途を明確化した品種開発もしています。例えば、お好み焼きソースでおなじみのオタフクと共同開発した、お好み焼き用キャベツというのがあるんです。お好み焼きがビシャビシャになってほしくないから、水分量が少なくても美味しいキャベツを開発したんです。キャベツは本来冬が旬ですが、今では旬がないくらい品種改良されてるんです。ただ、1年を通して美味しいお好み焼き用キャベツを出すには工夫が必要で、「あきおこ」「ふゆおこ」「はるおこ」「なつおこ」と、それぞれの季節の品種も開発しました。
パープルスター(紫色の芽キャベツ)

望月:最近の料理で必要な「映え」! 写真を撮るとき、映える一皿には紫色の野菜が入ってるなと、私も前から思っていたんですが、増田採種場は紫色の芽キャベツ「パープルスター」を開発したんですよ。ほかにも「ジューシーパープル(ケール)」「レッドキッチン(ケール)」「レッドベリー(キャベツ)」などの野菜も作っているわけです。未来も予測し、エンドユーザーや「どんなワンプレートになるか」を考えて作っているんだそう。想像力がすごいですよね!
ソフトケール

望月:今のイチオシは、ソフトケール! 日本で初めての生鮮葉物野菜の機能性表示食品です。よく健康食品なんかで聞くGABA(ギャバ)が天然で入っている野菜を開発しちゃったんです。ケールはキャベツの先祖だからアブラナ科ですが、ケールって青汁とかに入ってる苦い野菜のイメージがありますよね。
取材のときに、ソフトケールとソフトケールのヨーグルトをお土産にもらったので食べてみたら、全然苦くない! 葉っぱも甘くて柔らかいから生で食べられます。ヨーグルトなんて、高級デザートみたい! お通じもよくなっちゃいました。
原口:苦いから体にいいんだろうなという感じはありましたが、甘くて体にいいなら悪いところはひとつもないじゃないですか!
望月:そんな増田採種場では求人募集しています。今は、生産管理やパッキング作業スタッフの募集をしてますが、熱い情熱があれば野菜のブリーダーの募集もしています。最初は生鮮販売や通信販売をやってもらいますが、農学部の学生さんで「品種改良したい!」という人がいたらぜひ手を挙げていただければと思います。

今回、お話をうかがったのは……望月やすこさん
静岡県内を中心に子どもの撮影や取材撮影をするフリーカメラマン。撮影歴は25年。著書「子連れのタダビバ」シリーズ(静岡新聞社)や、朝日新聞エムスタ「望月やすこの#撮りテク」連載などの執筆から、テレビ・ラジオの出演など様々なメディアで活躍。