
静岡県を走るローカル鉄道・大井川鉄道が計画している「井川線」の大幅な値上げをめぐり、地元から反発の声が挙がっています。鳥塚亮社長は値上げの時期を一旦延期することを発表しましたが、なぜ今、井川線の値上げが必要なのか?渦中の鳥塚社長が単独インタビューに答えました。
■定期利用者は15年間0人の現実

大井川鉄道の井川線は、歯車をかみ合わせて急こう配を上る「アプト式」を国内で唯一導入している路線です。
沿線には湖に浮かんでいるように見える秘境駅「奥大井湖上駅」があり、鉄道ファンだけでなく、観光客にも人気です。
一方、大井川鉄道によると、通勤・通学などの定期利用者は過去15年間1人もいません。
この井川線について大井川鉄道は2026年6月1日から観光列車に変更し、料金を現在の約2.6倍に値上げする方針を一度は固めました。
■「社長は孤独」ブログの投稿を反省
<大井川鉄道 鳥塚亮社長>
「社長っていうのは結構、孤独なんですよ。夜に色々と『うーん』とか考えて、不安になったり、それを書いてしまった。それはやっぱり、良くないことだろうと、みっともないということで、反省をしているところです」
大鉄の鳥塚社長が"反省している"と話すのは、4月27日に投稿した自身のブログについて。
<鳥塚社長の個人ブログへの投稿(現在は削除)>
「ふだん田舎の山の中で生活している人たちにも理解していただくことは難しいということを、『やっぱりここもそうだったなあ』と今回改めて感じているところなのです」
鳥塚社長は大鉄・井川線の6月からの値上げに対して、地元から反発の声が挙がったことをきっかけに文章を投稿。

投稿はすでに削除されていますが、これに静岡県川根本町の町議らが抗議しました。
町議や観光業者などを対象に開いた説明会の場で、鳥塚社長は「言葉の間違った使い方があった」と謝罪し、値上げの時期も見直すと発表しました。
■一方で「値上げは必要不可欠、安売りすべきではない」
一方で、鳥塚社長は「値上げは大井川鉄道にとって必要不可欠」と話します。
<大井川鉄道 鳥塚亮社長>
「井川線と沿線が持っている価値ですね。これを安売りするべきではないと思います。“宝物”だと。地域の皆さんも言ってくれています。“宝物”だったら安売りしないですよね?ということ」
「きちっとした価値に見合った料金設定。今回は観光列車という形でお届けするということになりそうですが」
鳥塚社長が“起死回生の一手“として描くのは、井川線の観光列車としての再生です。
井川線を旅行商品として事前予約制で発売し、価格は区間にかかわらず、大人1人につき1乗車3500円に変更予定したい考えです。
5月現在の区間運賃は160円~1340円のため、全区間を乗車した場合は現在の約2.6倍となります。
■「観光列車は乗ること自体が目的」
<大井川鉄道 鳥塚亮社長>
「普通の列車というのは、目的地に行くために乗りますよね?会社に行くとか、学校に行くとか、買い物に行くとか、これは普通の列車です。観光列車というのは、乗ること自体が目的なんです」
「ですから、用がなくても『面白そうだな』『乗ってみたいな』という列車を走らせれば、その地域に用がない人もやってくるんです。これが観光列車なんですね。ですから観光客を誘致するためには、観光列車とか、何か面白い列車を走らせるということが一番手っ取り早いということですね」
「例えばディズニーランドでも汽車走ってますよね。『あの汽車どこへ行くんですか?』と言った時に、どこにも行かないんですよ。一周回って戻ってくるんです。だけど行列に並んで乗ってますよね?あれが観光鉄道です」
■参考にした鉄道と比べて半額程度の料金
鳥塚社長が参考にしたという鉄道の一つが富山県の黒部峡谷鉄道です。
全線を乗り通すと20.1kmで、運賃は2480円。(現在は一部区間が不通)
これに対して、井川線は全線25.5km。現在の運賃は1340円で、黒部峡谷鉄道と比較すると半額程度の料金です。
ではなぜ、今、値上げが必要なのかー
■「経費は半分にならない」

大井川鉄道の純利益の推移を見ると、「トーマス号」の導入や親会社が変わったことによる経営刷新を経て2019年度までは黒字でしたが、2020年度以降、コロナ禍で観光客が激減。
そこに2022年9月の台風15号の被害が追い討ちをかけました。
2026年5月現在、川根温泉笹間渡駅と千頭駅の間、全線の半分ほどが不通になっていて、全線開通は3年後の2029年になる見込みです。
<大井川鉄道 鳥塚亮社長>
「運賃収入半分ですからね。今、大井川鉄道の本線が約40km、川根温泉笹間渡までが20kmですから、約半分が不通区間」
「運賃収入半分ですが、例えばSLの維持管理だとか、従業員の人件費だとか、そういうものを考えたら経費は半分にはなりませんから。どなたが考えても、経営が厳しいというのは、ご理解いただけるんじゃないかと思います」
■「経営的に健全でないものはいち早く改善するべき」
井川線はもともと電源開発のために作られた路線で、運営にかかる費用(営業赤字分)は現在も中部電力が補填する仕組みになっています。
そのため、井川線の運営が大井川鉄道自体の経営悪化の主な原因になっているとは考えにくいという指摘についてはー
<大井川鉄道 鳥塚亮社長>
「所有と運営が別になっていますので、井川線はきちんと赤字の補填をできているという状態はあります。我々(大鉄)が井川線に力を入れても入れなくても『現状は同じでしょう』と、状況が分かっていらっしゃる方の中には、そう考える方もいると思います」
「ただ、やってもやらなくても同じだからというのは、経営的には私は健全ではないと思います。ですから、経営的に健全でないものは、いち早く改善するべきだと。じゃあ2年後にやりましょうとか、そういう話ではないんです」
■黒いSLが姿を消す大きな決断

鳥塚社長は千葉県の「いすみ鉄道」や新潟県の「えちごトキめき鉄道」をさまざまな企画によって経営改善してきたことで、「ローカル鉄道の再生請負人」と呼ばれてきました。
2024年6月の大井川鉄道への就任以降も「食堂車ツアー」や、かつて国鉄やJRで活躍した12系客車を用いての「夜行列車ツアー」などを仕掛け、集客に奔走してきました。
また、決断を迫られる場面も。
きかんしゃトーマス号が故障すると、「集客力が落ちてしまう」として、現状使える蒸気機関車2両をトーマス号とパーシー号の2両体制にすることを決めました。
結果として、昔ながらの黒いSLは一時的に大鉄から姿を消すことになりました。
■「"宝物"を安売りして忙しいだけで儲からないのはよくない」
<大井川鉄道 鳥塚亮社長>
「今、台湾から毎週のようにツアー客が来ています。台湾からのツアーは1週間程度、鉄道に乗って、静岡を回るツアーで60万円なんです。60万円払って来ている人たちが『1500円なら乗るけど、3500円だったら乗らない』といったことは無いはずなんです。こういった事は、内側にいると、やっぱりなかなか気づけない」
「私は東京出身なんです。この静岡県の特に山間部の良さ、大井川水系の景色の良さ、価値、これを私は理解しているつもりです。観光で来られる方も外から来られる方。だから、外の基準に合わせて価格設定をしていかないと、やはり“宝物”の安売りをすることになって、忙しいだけで儲からないというのは良くない」
大井川鉄道は、値上げによって井川線の利用客は1割程度減ると試算しています。
■町議会議員「値上げは反対していない。数字的根拠が必要」
鳥塚社長のブログの投稿などに抗議した川根本町の町議会議員・中原緑さんは「何回も申し上げている通り、値上げについて反対はしていません。値上げの中身ですよね。この値段設定にすれば、ここまで回復できるという数字的根拠を示してもらえれば。その辺りをもう少し丁寧に説明してもらえれば良かった」と話しています。
中原議員は大鉄の経営改善には一定の理解を示したうえで、沿線の観光振興への対策を求めています。
■推し活の時代の波に乗れるか

<大井川鉄道 鳥塚亮社長>
「井川線が儲かる、大井川鉄道が儲かるという構造を作ることによって、積極的に観光もPRもできるようになります。井川線を売りこむために、東京や大阪の営業マンが旅行会社を回ることもできます。そういう時に一緒に、例えば『このお店でご飯が食べられますよ』とか『ここに泊まれますよ』というようなことを一緒に宣伝することもできる」
「奥大井湖上駅の写真を見て、東京の人が『どこの国ですか』って言うんですよ。それだけの魅力があるんです。井川線という『本当にここ日本ですか?』というような場所を皆さんに知っていただきたい。今は推し活の時代です。気に入ったところに何度も行くという人たちがいっぱいいるんです。そういう人たちにこの景色を紹介して、その土地の食べ物だとか、地域の魅力を体験していただくことができれば、気に入った人は何度も来てくれるはず」
大井川鉄道は、将来的に車が運転できなくなった地元住民などに配慮し、2年間有効の住民向けフリーパスを1000円で発行するほか、1日1往復は普通乗車券で利用できる列車を走らせる計画があるとしています。
値上げに関する一連の騒動は決着したと言えるのか?
■大鉄と自治体が同じ方向を向けるか
静岡県川根本町の薗田靖邦町長は、「大鉄の報告から値上げまでの期間が短かったということが問題。今回は大鉄の企業努力で進めて行くものだと思う」と話しています。
川根本町としては、値上げの根拠が明確で、地元への説明をしっかりとしてくれれば、値上げ自体は大鉄の判断で進めるもので「この問題がこじれないでほしい」というのが本音です。
鉄道が無くなっては困るという思いは大井川鉄道も川根本町側も一致していて、どう存続していくのか?同じ方向を向けるかが、いま問われています。
【大井川鉄道井川線】
千頭駅(川根本町)と井川駅(静岡市葵区)を結ぶ全長25.5kmの路線。1935年に発電所建設のための資材運搬用として一部区間が開通。
当時は中部電力の専用鉄道だったが、1959年に大井川鉄道が運行を受託する形で営業運行を開始。










































































