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パートナーシップ制度 静岡県内で広がる

 性的少数者(LGBT)や事実婚のカップルを公認する「パートナーシップ宣誓制度」の導入が静岡県内の自治体で広がっています。県内で先駆けて開始した浜松市の取り組みや教育現場での動きをまとめました。
  〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・寺田将人〉

静岡県内で初導入の浜松市 1年で28組公認 

 2020年4月に静岡県内で初めて性的少数者(LGBT)や事実婚のカップルを公認する「パートナーシップ宣誓制度」を導入した浜松市で、初年度は28組が公認を受けた。全国で少なくとも70以上の自治体が導入し、21年4月1日から富士市も同様の制度を設けた。「2人の関係を堂々と言えるようになった」と喜ぶ当事者がいる一方、専門家は「LGBTに対する社会の理解度はまだ制度に追い付いていない」と指摘する。

LGBTなどのカップルを公認するパートナーシップ宣誓書の受領証と受領カードを手にする浜松市職員=2日午後、同市役所
LGBTなどのカップルを公認するパートナーシップ宣誓書の受領証と受領カードを手にする浜松市職員=2日午後、同市役所
 浜松市では20年4~9月に22組、10月~今年3月に6組がパートナーシップ宣誓書を提出、公認を証明する「受領証」を受けた。市は事実婚も対象としカップルのうち1人が市外在住でも可とするなど間口を広くした。制度を設けた全国の自治体で公認数が10組以下という所が少なくない中、浜松市は他都市より多めに推移している。
 市は公認したカップルを婚姻相当の関係と認める施策として、市営住宅の入居要件に適用した。ほかに、市が設置する医療機関に公認カップルの一方が搬送されたり入院したりした場合の病状説明や面会などでも適用に向けて調整を進めている。昨年度はコロナ禍で十分実施できなかった市民向けのLGBT理解促進のイベント開催も検討。市職員向けに窓口対応などのハンドブックも作成する。
 宣誓カップル第1号となったトランスジェンダー(性別越境者)男性の鈴木げんさん(46)は「自分たちの関係が公認されたこと以上に、社会的に同性同士にも婚姻の平等が認められたことがうれしい」とし、同性婚の法制化に向けた機運醸成を期待する。
 ジェンダー論が専門の笹原恵静岡大教授は「宣誓しても周囲にカミングアウト(表明)できないカップルはまだ多い。LGBTを偏見なく受け入れる社会が必要」と強調。社会全体の理解度をどう向上させていくかが課題とみる。
(2021/04/03)

富士市でも4月から制度開始 初日は5組が宣誓書

 法律上の婚姻ができない同性カップルや事実婚の関係性を認める富士市の「パートナーシップ宣誓制度」が4月1日に始まった。静岡県内では浜松市に次ぎ2市目。初日に合わせて5組が宣誓書を提出して受領証を手にした。今後2組も提出を予定している。

宣誓書受領証を受け取り、小長井義正市長(中央)と記念撮影をする2組のカップルの代表者=1日午後、富士市役所
宣誓書受領証を受け取り、小長井義正市長(中央)と記念撮影をする2組のカップルの代表者=1日午後、富士市役所
 初日は、富士市役所で宣誓書受領証交付式が行われ、宣誓書提出予定者を含めた4組が出席した。小長井義正市長は「皆さんの願いを形にできた。制度はスタートしたがこれからが大事。誰もが生きづらさを感じない社会の実現に向け制度を拡充していく」と述べ、各カップルに受領証と記念の花を手渡した。
 2009年から共に生活し、受領第1号となったカップルは「順番にこだわりはなかったが、認められる社会になったことがうれしい。今後に希望が持てる」と喜んだ。パートナーの女性と式に出席したトランスジェンダーの山崎成さん(43)は「同じ住所で暮らしても(法律的には)他人の2人。もしもの時にパートナーがどうなるか不安だった。やっとみんなと一緒のスタートラインに立った」と感慨を語った。
 同制度は、互いがパートナーと認め合う2人が共同生活を約束した関係であるとの宣誓書を市に提出して宣誓すると、市が受領証を交付して公的に証明する。同市では市営住宅の申し込みや中央病院での手術・検査の同意代行、税証明交付申請などで法律上の夫婦と同様の対応が可能になる。県内では浜松市が2020年度に同制度を開始。富士市によると同日時点で少なくとも全国80以上の自治体が導入している。
(2021/04/02)

公営住宅の入居や携帯電話の家族割り…夫婦相当の関係とみなす動きも

 性的少数者(LGBT)や事実婚のカップルを公認する「パートナーシップ宣誓制度」が2020年4月1日、静岡県内で初めて浜松市で始まる。「人の性別は男女のみで、恋愛対象は異性のみ」という旧来の意識から脱却し、性の多様性などを認め合う社会を目指す試みだ。定着に向けた課題を探る。

パートナーシップ宣誓制度への期待を語り合う鈴木げんさん(右)と国井良子さん=浜松市天竜区春野町
パートナーシップ宣誓制度への期待を語り合う鈴木げんさん(右)と国井良子さん=浜松市天竜区春野町
 3月半ば、浜松市内のレストラン。1組のカップルが互いの母親を伴い、顔合わせの食事会を開いた。前日までに相手の母親へあいさつを済ませていたため、和やかな雰囲気。「一緒になってくれる人がいて本当によかった」。母親の1人からそんな言葉も漏れた。
  カップルは同市天竜区春野町の古民家で竹かばんを制作する職人鈴木げんさん(45)と市内のフリーライター国井良子さん(47)。国井さんは週1、2回、料理を作って食事を共にするため鈴木さん宅に通っている。2人は市がパートナーシップ宣誓制度を施行する4月1日、市役所で「互いを人生のパートナーとし、共同生活を行う」ことを宣誓する。
  鈴木さんは戸籍上の性別の女性として生きることに息苦しさを感じ、男性として生きるトランスジェンダー(性別越境者)。5年前から乳腺摘出手術やホルモン治療を受け、あごひげなどの外見や声色は男性そのものだ。しかし、戸籍の性別変更に必要な生殖腺除去などの条件を満たさず、法律上は女性のままとなっている。
  鈴木さんは性的少数者であるのに対し、国井さんは性的少数者ではなく、戸籍上も自認する性別も女性。「戸籍上は同性カップル。同性婚を認めない今の法律では結婚できない」と鈴木さんは嘆く。
  一方、「女性だったころの彼を知らない。男性の彼を好きになっただけ」と国井さん。かつては性的少数者ではない男性と結婚し、授かった娘は22歳になる。娘に鈴木さんを紹介すると「家族として歓迎する」と喜んだ。
  2人の家族は交際を歓迎しているのに、LGBTへの理解が不十分な人々から、家族は心ない言葉を掛けられることもあるという。そんな状況を乗り越えるためにも、2人がパートナーであることを宣誓する。「どんな人にも平等に婚姻の自由が認められる社会が実現してほしいから」と鈴木さん。将来、法律で同性婚が認められる時代に向けての第一歩が、パートナーシップ宣誓制度の全国への普及だと考えている。

 ■パートナーシップ宣誓制度 
同性愛者であるレズビアン(L)とゲイ(G)、両性愛者のバイセクシュアル(B)、体と心の性が一致しないトランスジェンダー(T)らの総称である性的少数者(LGBT)や事実婚などのカップルを自治体が公的に証明する制度。財産相続や税控除などの法的効力は発生しないが、自治体が交付する証明カードの提示により、公営住宅の入居や携帯電話の家族割りなどで、夫婦相当の関係とみなす動きもある。
(静岡新聞 連載「パートナー制度 浜松市で始動」2020年3月27日朝刊)

教育現場では 高校願書の性別欄廃止

 静岡県教委は、県立高と県立高中等部の入学者選抜に必要な願書の性別記入欄を、2021年度から廃止すると決めた。心と体の性別が一致しないトランスジェンダーの志願者などへの配慮を踏まえ、願書に記載する必要のない情報として削除した。全国では2年ほど前から、入学願書の性別欄をなくす動きが進んでいる。

本多伸治課長(左)に要望書を手渡した鈴木げん代表=県庁
本多伸治課長(左)に要望書を手渡した鈴木げん代表=県庁
 高校教育課によると、夏に中学生に配布予定の22年度入学者選抜の要項から変更を反映する。県教委は性別記入欄の廃止に向け、行政運営の効率化を目的にした押印廃止の取り組みと合わせて学則を改正した。高校側は、中学校から提出される調査書で生徒の性別を把握でき、学校運営に支障はないという。
 26日には、トランスジェンダーの当事者らでつくる浜松TG研究会が性別欄廃止の要望書をまとめ、同課へ提出した。
 提出に訪れた鈴木げん代表に、本多伸治課長が「全国の中では遅れてしまったが、改める方向で進めていく」と説明した。鈴木代表は取材に「『性の在り方は多様』という前提に立ち、どんな子どもも尊重される学校にしてほしい」と訴えた。
(2021/03/27)
地域再生大賞