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⚽藤枝順心が全日本高校女子選手権連覇 激闘を振り返ります

 藤枝順心が第32回全日本高校女子サッカー選手権で連覇を果たしました。夏の全国高校総体と合わせると冬夏冬の3連続優勝。大会終盤は苦しい展開の試合が続きましたが、決勝では前半から「これぞ順心!」と唸らせるような試合運びを見せてくれました。準々決勝からの激闘を振り返ります。

【準々決勝 神村学園戦】堅守に苦しむも 最終盤でPK一閃

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後半40分、決勝点のPKを決めて喜ぶ藤枝順心の下吉(中央)

 第32回全日本高校女子サッカー選手権は3日、兵庫県の三木総合防災公園陸上競技場などで準々決勝を行った。藤枝順心は第30回大会優勝の神村学園(鹿児島)を1―0で下し、5年連続の4強入りを果たした。
 藤枝順心は前半から攻め立て、後半も一方的に相手のゴールに迫ったが、1点が遠かった。だが同40分、CKからペナルティーエリア内で反則を受け、MF下吉優衣が決勝点となるPKを決めた。
▽準々決勝
藤枝順心 1(0―0 1―0)0 神村学園(鹿児島)
▽得点者【藤】下吉(PK)


強心臓ぶりを発揮 下吉「緊張しなかった」
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後半40分、決勝点のPKを決める藤枝順心の下吉(右)

 1点勝負の接戦。後半終了間際に獲得したPKを、藤枝順心のMF下吉が確実に決め勝利をつかんだ。「練習でも外したことはない。緊張もしなかった」と、ここ一番で強心臓ぶりを発揮した。
 前半は前線の両翼を担う藤原、辻沢を起点にサイドへ展開した攻撃が機能。後半からはサイドバックやインサイドの選手も絡めて攻撃の手を緩めず、神村学園に対し、一方的に攻め立てた。
 だが、2戦連続無失点で勝ち上がってきた相手の堅守に阻まれ苦しい時間帯が続いた。それでも「守備のリスク管理を徹底しながらじれずに仕掛け続け、セットプレーが取れれば流れが来る」と中村監督の指示通りに最終盤にCKを獲得。ペナルティーエリア内の攻防で、辻沢が相手の反則を誘った。
 普段キッカーは決まっていないが、指揮官はこの日何度も好機を演出していた下吉を指名。チームの期待を背負った背番号6は迷いなく右足を振り抜き、左隅へと突き刺した。次戦は全国高校総体の初戦でPK戦までもつれた大阪学芸が相手。「自分たちが主導権を握って勝ちきりたい」と下吉。2年連続の決勝の舞台をつかむ意気込みだ。
守護神菊地が冷静セーブ 無失点勝利に貢献
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前半、ゴールを死守する藤枝順心の菊地(右から2人目)

 緊迫した展開の中で、藤枝順心のGK菊地は冷静なセービングと的確な指示でゴールを守り勝利に貢献した。
 「味方をコーチングして、シュートを打たせないようにしたい」と戦前に話していた通り、DF陣と連係を密にして相手のシュートを5本に抑えた。後半38分には中盤でボールを奪われ、中央から打たれたシュートを好セーブ。「自分の中ではキャッチしたかったがこぼしてしまい、味方がカバーしてくれた。でも防げたので良かった」と振り返る。
 昨年も全試合に先発出場して優勝を経験した守護神は「どの試合も一緒だが、失点を防いで良い形でゲームを締められたら」と先を見据えた。
(運動部・吉沢光隆)
〈2024.1.4 あなたの静岡新聞〉

【準決勝 大阪学芸戦】あわやPK戦 ロスタイムで逃げ切る

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試合終了間際、決勝点を決めて喜ぶ藤枝順心の藤原(中央左)

 第32回全日本高校女子サッカー選手権は5日、兵庫県のノエビアスタジアム神戸で準決勝を行った。連覇を狙う静岡県の藤枝順心は大阪学芸に1-0で競り勝ち、2年連続の決勝進出を果たした。
 藤枝順心は0-0で迎えた後半ロスタイム、MF下吉優衣の縦へのロングパスに反応したFW藤原凛音が決勝ゴールを決めた。サイドから展開する相手の攻撃にはDF陣がポジショニングを徹底し、失点を防いだ。
▽準決勝
藤枝順心 1(0-0 1-0)0 大阪学芸
▽得点者【藤】藤原(下吉)


 【評】後半ロスタイムに貴重な得点を挙げ、藤枝順心が激戦を制した。藤枝順心は前半31分、ニアサイドへのCKをFW高岡が頭で合わせたがポストに阻まれた。後半19分にはFW辻沢の折り返しをフリーで受けたMF久保田が決めきれず。決定機を何度かつくったものの得点できなかった。だが終了間際、MF下吉の縦へのロングパスをFW藤原が右足で合わせ、決勝ゴールをたたき込んだ。
一瞬の隙 藤原、鮮やかにワンタッチ
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試合終了間際、決勝点を決める藤枝順心の藤原(左)

 PK戦に突入かという苦しい最終盤。FW藤原の劇的な決勝ゴールが、藤枝順心を2年連続決勝へと導いた。「初戦から仕事ができていなかったので、勝利に貢献できてうれしい」。値千金の得点に笑みがはじけた。
 点が取れずに焦りが募る時間帯。藤原は背後へ抜け出すチャンスをうかがっていた。相手DFの対応を見て「自分のスピードならいける」とタイミングを計りパスを待った。MF下吉のパスから得点するパターンはこれまで何度も経験済み。だからこそ思い切ることができた。「キーパーが出てくるのが見えたので、蹴れば入る」。イメージ通りに右足のワンタッチでゴールへ押し込んだ。
 この直前、スタッフ陣は藤原の交代を考えていたという。中村監督は「最後に一度、サイドを変えて引っ張ってみようと話したタイミングでのゴール。素晴らしい抜け出しで決めてくれた」と殊勲の2年生をたたえた。
 新人戦から先発をつかんだものの、全国高校総体の大阪学芸戦では思ったプレーができず、決勝はピッチの外から優勝を見届けた。悔しさをバネに、今大会は3試合で先発を張る。「自分と向き合う時間があったから自信を持つことができた」。連覇へあと一つ。自らのゴールで先輩の花道を飾る意気込みだ。
絶妙ロングパス 下吉、決勝点アシスト
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後半、競り合う藤枝順心の下吉(右)

 藤枝順心の決勝点はMF下吉の絶妙な縦へのロングパスから生まれた。「(藤原が)走ったのが見えた。距離はあったが、フリーだったのでいける」と迷いなく自陣から蹴り出した。
 精度の高いキックやパスでゲームをつくり、今大会も多くの得点に絡んできた。中村監督は「左右、長短で正確なパスが出せるし、ショートパスやドリブルで相手を錯乱できる。彼女なしでは勝てなかった」と存在の大きさを語る。
 昨年の準決勝でも決勝ゴールと大舞台で力を発揮する。決勝は2年連続で十文字が相手。「チャレンジャー精神で臨み、日本一を取って笑顔で終わりたい」と前を見据えた。
 (運動部・吉沢光隆)
 〈2024.1.6 あなたの静岡新聞〉

【決勝 十文字戦】序盤から圧倒 女王の風格

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2連覇を決めて喜ぶ藤枝順心イレブン

 サッカーの第32回全日本高校女子選手権最終日は7日、神戸市のノエビアスタジアム神戸で決勝を行い、静岡県の藤枝順心が十文字(東京)を3-0で下し、2年連続7度目の優勝を果たした。5試合で17得点、1失点と攻守で力を発揮した。
 藤枝順心は前半4分、FW辻沢亜唯のシュートのこぼれ球をMF久保田真生が押し込み先制。同終了間際には辻沢が右足を振り抜き加点した。後半はGK菊地優杏の好セーブが光り、途中出場のMF葛西唯衣が3点目を奪った。
 ▽決勝
 藤枝順心 3(2―0 1―0)0 十文字(東京)
 ▽得点者【藤】久保田、辻沢、葛西


 【評】藤枝順心が序盤から主導権を握り、十文字に快勝した。藤枝順心は前半4分、背後を狙ったFW高岡の縦へのパスを受けたFW辻沢がシュートを放ち、こぼれ球をMF久保田が押し込み先制した。同45分にもMF植本の背後へのロングボールに辻沢が反応して加点。相手DFの動きを分析し、裏を狙った攻撃が想定通りにはまった。後半、攻撃の枚数を増やしてゴールに迫る相手に対し、全員のハードワークでゴールを死守。途中出場のMF葛西が左足で強烈なシュートを決め、ダメ押しの3点を奪った。
主将久保田 後方の支えも原動力に
 
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前半、先制点を決めて喜ぶ藤枝順心の久保田(10)

 背中で引っ張り続けた主将の先制ゴールがチームを勇気づけた。試合開始早々、ゴール前のこぼれ球に藤枝順心のMF久保田が素早く反応。ゴールネットを揺らし「後ろの選手が守ってくれて、FWも攻めてくれて自分の前に転がってきた。決めきるだけだった」。先制点を早い段階で奪い、波に乗った。

 相手DFの背後に隙があると見ていた順心。FW高岡が狙い通りに、裏へ抜けるFW辻沢へ縦パス。キーパーの体勢が良くないと見るや辻沢は果敢にシュートを放ち久保田のゴールにつなげた。日本代表としてU-17(17歳以下)ワールドカップを戦った3人の鮮やかな連係だった。
 世代屈指の前線プレーヤーを生かしてきたのは後方の選手たちだった。「上の舞台でも通用するために」(中村監督)と、複数ポジションをこなせるよう選手を育成する中で、DF陣はほとんどが元前線のプレーヤー。サイドハーフから昨年5月にセンターバックになった共同主将の大川は「前線にいたからこそ前の選手の気持ちが分かる」と強調する。後ろからの的確なかけ声がピッチ全体の円滑な連係を生み出した。
 久保田は「それぞれの立場でチームのために動いてくれる最高の仲間」と一人一人を表現する。全員でつかんだ優勝が、何よりも誇らしかった。
(運動部・吉沢光隆)  辻沢 2得点に絡みけん引 念願舞台で有終
 
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前半45分、2点目を決める藤枝順心・辻沢(右から2人目)

 ようやく立った念願の舞台で、FW辻沢は存分に駆け回り、躍動した。先制、追加の2得点に絡み、チームをけん引。「点を決めて、優勝できて、最高です」。達成感に満ちた、晴れやかな表情を浮かべた。
 福岡県出身で、一昨年のU-17(17歳以下)女子ワールドカップ(W杯)では代表の主力を担った世代屈指の実力者だが、選手権には縁がなかった。1年時は左膝前十字靱帯(じんたい)断裂、2年時は左足首骨折で出場できず。“最初で最後”の今大会に懸けていた。
 前半4分に右サイドを抜け出して先制点につながるシュートを打つと、同45分には逆の左サイドを突破して相手GKとの1対1を制した。巧みに守備網の背後を突く持ち味を大一番で発揮した。
 卒業後はWEリーグのINAC神戸入りする。「最終的にはW杯で優勝したい」。有終の美を鮮やかに飾り、次のステージに進む。
(運動部・市川淳一朗)  重圧にも勝利 総体優勝機に上昇
 
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 前回大会で優勝し、女王の称号を引っさげスタートした今チーム。「打倒順心」と目の色を変えて挑んでくる相手からは対策されてマークが激しくなり、心身に受けるプレッシャーは想像以上に大きかった。
 高いポテンシャルを武器に白星を重ねた。ただ納得のサッカーは遠く、もどかしい期間を過ごした。転機は夏の全国高校総体。接戦を拾いながら再び頂点をつかんだが、決定力不足やポジショニングの悪さなど、得たのは反省ばかり。「見つめ直そう」(久保田)。選手の尻に再び火が付いた瞬間だった。
 中村監督は「相手が挑戦者で来るからこそ、どこよりも成長できる要素がある」と言い聞かせてきた。言葉通り選手は互いに厳しく要求をぶつけ合い、一方でそれぞれの個性を認め合いながら進化を続けた。皇后杯では格上のなでしこ1部チームにも勝利。チーム力は格段に向上した。
 主将の大川は試合前に「今までで一番雰囲気が良く、絶対に日本一を取れると思った」と感じたという。重圧と戦った1年。3年生のラストゲームは「ベストパフォーマンスだった」と指揮官。喜ぶ選手に温かなまなざしを送った。
〈2024.1.8 あなたの静岡新聞〉

【昨年大会も決勝は同カード】後半、エースが一撃 猛攻しのぐ

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十文字との決勝戦を制した藤枝順心の選手

 サッカーの第31回全日本高校女子選手権最終日は8日、神戸市のノエビアスタジアム神戸で決勝を行い、静岡県の藤枝順心が1-0で十文字(東京)を破り2年ぶりの頂点に返り咲いた。優勝は6度目で歴代単独最多。1回戦からの5試合で計13得点、1失点と攻守で力を発揮した。
 0-0で前半を折り返した藤枝順心は後半23分、左サイドでボールを奪ったFW山田歩美が中央へ絶妙なパスを流し、FW正野瑠菜が冷静に押し込み先制した。十文字の猛攻に対しては守備陣を中心に全員で守り抜いた。

▽決勝
藤枝順心 1(0―0 1―0)0 十文字(東京)
▽得点者【藤】正野


 【評】藤枝順心が十文字との接戦を制し、頂点に立った。藤枝順心は前半4分、右サイドからの相手の強烈なシュートをGK菊地が好セーブ。攻撃では前半終了前、縦へのパスにFW山田が反応したが、わずかに枠を捉えられず互いに無得点で折り返した。後半徐々に流れをつかんだ藤枝順心は同23分、敵陣左サイドでボールを奪ったFW山田が中央に絶妙なパス。フリーで受けたFW正野が相手GKをかわし、冷静に先制ゴールを決めた。十文字の積極的な攻撃に押される場面もあったが、GK菊地が再三の好セーブでチームを救った。

正野 最高の輝き 重圧はねのけ決勝点
 
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後半23分、相手GKをかわしてゴールを決める藤枝順心の正野(右)

 初戦の2得点以降は鳴りをひそめていた点取り屋が、ここ一番で最高の輝きを放った。十文字との熾烈(しれつ)な攻防が続く中、藤枝順心のFW正野が重圧をはねのけVゴールを奪った。「これまで良いプレーができなかったが、最後に(自分を)信じてパスを出してくれた。味方にいっぱい助けられた」。エースの復活は誰もが待ちわびた瞬間だった。
 一瞬の隙を逃さなかった。後半23分、中央を走る正野は、左サイドでボールを奪ったFW山田とアイコンタクト。絶妙なパスを受けてGKと1対1になると、小学校時代からの経験を生かした。「ゴール前ではキーパーを抜くことが多くて、シュートよりも自信があった」と冷静に相手をかわし、流し込んだ。
 卒業後はなでしこ1部・伊賀に進む実力者だが、直近3試合は苦しんだ。中村監督の「味方を生かせば最後に自分に返ってくるよ」との言葉を信じ、実行した。「迷惑を掛けたが、皆が声を掛けて支えてくれたから頑張れた」。集大成の冬、3年間の努力が結実した。

菊地 好セーブ連発
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前半、十文字のゴールを阻む藤枝順心のGK菊地(中央奥)

 十文字の強烈なシュートが幾度も藤枝順心ゴールを襲った。GK菊地はその都度、好セーブを連発。身をていして、最後までゴールを守り抜いた。
 前半4分に相手の鋭いシュートを右手に当てて最初のピンチをしのぐと、後半はクロスに合わせたヘディングシュートに飛びつき、相手の決定機を阻止した。
 今大会全5試合にフル出場し、わずか1失点。中村監督は「よくディフェンスラインを支え、素晴らしいプレーを見せてくれた」とたたえた。殊勲の2年生守護神は「最高の景色を3年生に見せたいという思いが届いた。無失点で勝てて本当にうれしい」と胸を張った。
〈2023.1.9 あなたの静岡新聞〉
 
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