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完全復活まだ遠く 静岡空港国際線

 コロナ禍で運休していた国際線が徐々に再開しつつある静岡空港。韓国・ソウル線は搭乗率8割を超え毎日運航が行われている一方、中国・上海線は出足が鈍く、東京電力福島第1原発の処理水放出の影響とみられるキャンセルが相次ぐなど、明暗が分かれています。静岡県内インバウンドの現状や国際線再開時の様子を1ページにまとめました。

ソウル、上海、台北の各路線 コロナ前には及ばずも明暗分かれる

 新型コロナウイルス禍で落ち込んでいた航空需要が持ち直す中、静岡空港国際線の明暗が分かれている。3月にいち早く定期便を再開した韓国・ソウル線が搭乗率8割を超える一方、9月下旬に続いた中国・上海線は出足が鈍く、台湾・台北線は再開のめどが立っていない。国際線の搭乗者数はコロナ前に遠く及ばず、県は静岡空港の完全復活に向けて運航再開の働きかけや需要の掘り起こしを急ぐ。

静岡空港国内線と国際線の搭乗者数
静岡空港国内線と国際線の搭乗者数
 ソウル線は4~9月の搭乗者数が3万5925人、搭乗率が81・9%と好調に推移している。円安を追い風にインバウンド(訪日客)が増え、観光のため静岡から韓国を訪れるアウトバウンド需要も寄与した。10月29日からは毎日運航となり、搭乗者数のさらなる増加が期待される。
 ソウル線に続いて定期便の運航を再開した上海線。2日間計4便を運航した9月は搭乗者数301人、搭乗率48・2%と苦戦した。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が影響した可能性があり、コロナ前の水準まで回復するには時間がかかるとの見方が出ている。寧波、杭州、南昌といった他の中国路線は運休・欠航が続き、再開は見通せない。
 一方の台北線。コロナの感染拡大以降、チャーター便を含めて一度も運航されていない。県は復便の遅れについて、航空会社の機材繰りやパイロットなどの人手不足が影響していると指摘する。空港振興課の担当者は「まずは23年度中にチャーター便を飛ばせるよう引き続き航空会社に働きかけていく」と話す。
 静岡空港の23年度上半期(4~9月)の搭乗者数は国内線が22万4608人、国際線が3万6419人。コロナ前の19年度上半期に比べ国内線が88・7%まで回復したのに対し、国際線は21・9%にとどまった。搭乗者数の安定化には路線の拡充が不可欠で、県は「新たな就航先の開拓にも取り組む」としている。
 (政治部・森田憲吾)
<2023.11.18 あなたの静岡新聞>

好調ソウル線 再開時はお祝いムード

 静岡空港で26日、ソウル線定期便の運航が再開した。県などが記念式典を開き、空港関係者が3年ぶりとなる国際線定期便の到着と出発を祝った。

ソウル行き定期便の搭乗客に記念品を手渡す空港関係者=26日午後4時50分ごろ、静岡空港
ソウル行き定期便の搭乗客に記念品を手渡す空港関係者=26日午後4時50分ごろ、静岡空港
 式典で運航会社のチェジュ航空日本における代表者のファン・ジュンヨンさんが「県民が気軽に韓国に行く機会を提供できる」と述べた。出野勉副知事は「静岡空港にとって重要な路線。経済界や地元自治体の力で再開できた」と謝意を示した。関係者がくす玉を割って祝福した。
 約140人を乗せたソウルからの定期便が到着すると、放水アーチで機体を出迎えた。国際線到着口では、法被姿の空港関係者が韓国語の県内マップなど記念品を搭乗客に手渡した。
 国際線出発口でも関係者が見送り、ほぼ満席となる約180人を乗せたソウル行きの定期便が出発した。旅行目的の主婦(37)=豊橋市=は「コロナ禍前はよく国際線を利用していた。駐車場があり、車で空港に来られるのでとても便利」と再開を喜んだ。
 静岡空港と仁川国際空港を結ぶ定期便は水、金、日曜の週3往復する。
 (島田支局・寺田将人)
<2023.3.27 あなたの静岡新聞>
 

伸び悩む上海線 再開前から懸念も

 新型コロナウイルスの影響で運休していた静岡空港の中国・上海線が24日、運航を再開する。訪日旅行需要の本格回復を期待し、静岡県内の観光・宿泊事業者が中国人客の受け入れ態勢を整えている。3年7カ月ぶりの定期便再開で、中国からの団体客が各地を訪れることが期待される一方、8月下旬に始まった東京電力福島第1原発の処理水放出による対日感情の悪化から予約がキャンセルされる事例も見られる。関係事業者は中国の動向に気をもみながら、集客策を練る。

茶の入れ方を中国語などで説明する掲示物=20日、藤枝市
茶の入れ方を中国語などで説明する掲示物=20日、藤枝市
 茶文化発信施設「玉露の里」(藤枝市)では、中国政府が停止していた日本への団体旅行を解禁した8月から茶室での茶道体験目当ての中国人客が増え始めた。静岡発着の上海線再開も決まり、コロナ前に客数全体の約4割を占めた主要顧客のさらなる来館増を当て込んでいたが、処理水放出で一変。中国の旅行会社から予約取り消しの連絡が続き、10月末までの関連予約13件のうち11件計約220人の入館予定が失われた。
 出はなをくじかれながらも、茶の入れ方を中国語などで説明する掲示物や翻訳機器をそろえるなど、引き続き中国人客の接遇力向上に取り組んでいる。施設を管理運営する静鉄リテイリング(静岡市葵区)の担当者は「茶室の雰囲気や食事など、体験した良い思い出を持ち帰ってもらい、評判を広げてほしい」と話す。
 浜松市内のホテルには8月下旬以降、中国の旅行会社から「客が集まらない」と、ツアーの中止連絡が入り、約60組のうち10組200人超の宿泊が白紙に。マレーシアの旅行会社からも集客に苦戦しているとの情報があり、悪い風評の広がりを実感する。外国人利用客の多くはアメリカ人などで営業面に大きな支障はないというが、担当者は「中国人団体客で稼働率の上振れに期待していただけに残念。処理水の影響が長引かなければいいが」と語った。
 顧客の大半を中国に頼り、大きな打撃を受けた企業もある。藤枝市の旅行会社「ワールドフォース」はコロナ前、顧客の8割を中国人団体客が占めていた。見積もりの依頼が徐々に増え、業績回復の兆しが見えていたが、8月下旬以降に中国の行政や企業の視察旅行などの予約が全てキャンセルとなり、コロナ禍の3年半と変わらない状況が続く格好となった。加藤広司統括事業本部長は「中国の拒否反応が長く続くとは考えにくい。官民が連携し、長期的な目線で対外的な売り込みを続けることが重要だ」と強調する。
 (経済部・駒木千尋)
<2023.9.24 あなたの静岡新聞>

中国人の静岡県内の宿泊 持ち直しの動き

 8月に県内のホテルや旅館に泊まった中国人は延べ2万5170人で、新型コロナウイルス感染拡大後、初めて外国人全体の3割を超えたことが2日までに分かった。日本への団体旅行解禁が追い風になったとみられ、宿泊者数は解禁前の7月から35・6%増えた。ただ、コロナ禍前の2019年8月(15万3490人)比では16・4%にとどまる。今後も持ち直しの動きは続くとみられるが、東京電力福島第1原発の処理水放出や中国の経済減速の影響で本格回復には時間がかかる可能性もある。

静岡県内の中国人宿泊者数推移
静岡県内の中国人宿泊者数推移
 観光庁がまとめた8月の宿泊旅行統計調査(速報値)によると、県内の外国人宿泊者数は9万3870人だった。前年同月から6倍に増え、中国の伸びが全体を押し上げた。
 国籍(出身地)は従業員数10人以上の施設が調査対象。中国が全体の31・8%を占めて最も多く、台湾13・4%、香港8・7%、米国5・7%、韓国3・9%が続いた。
 
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静岡県内外国人宿泊者数の国・地域別内訳(8月)

 19年の中国人宿泊者はおおむね月10万人台で推移していたが、コロナ禍で急減。22年10月の水際対策緩和や円安効果で訪日客が大幅に増える一方、中国は団体旅行の禁止などが響き、回復のペースが遅れていた。
 19年の県内外国人宿泊者は中国が全体の7割前後を占めていた。本県のインバウンド(訪日客)は他県に比べて戻りが鈍く、コロナ前の水準に戻るかどうかは中国からの訪日客の動向が左右する。
 処理水放出を巡っては、日本への旅行をキャンセルする動きも顕在化し、「中国人客は思ったほど増えていない。日中関係が悪化し、影響が長引く可能性がある」(県西部のホテル)との懸念も出ている。9月24日には静岡空港と中国・上海を結ぶ定期便が3年7カ月ぶりに運航を再開し、訪日客増加の呼び水となるか注目される。
 8月の宿泊旅行統計調査によると、県内のホテル・旅館に泊まった日本人と外国人の総数は243万5050人だった。前年同月から1・2%増え、19年比では17・8%減った。
 客室稼働率は58・6%。前年同月より1・9ポイント上昇し、19年比では15・2ポイント低下した。宿泊施設別は旅館51・5%、リゾートホテル52・0%、ビジネスホテル73・2%、シティホテル72・5%などとなった。
 (政治部・森田憲吾)
<2023.11.3 あなたの静岡新聞>
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