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静岡県内初の夜間中学「県立ふじのくに中学校」開校

 静岡県内初の夜間中学「県立ふじのくに中学校」。義務教育を修了できなかった人や、不登校などで十分な教育を受けられないまま形式的に中学校を卒業した人、母国で義務教育を修了せず来日した外国人など、さまざまな人の学び直しを支えます。初代校長は「勇気を振り絞って入学してくれる。その一歩を全力でサポートしたい」と話しています。

磐田と三島に教室 年齢、国籍 多様な視点に触れる場に

 静岡県内初の夜間中学「県立ふじのくに中学校」が7日、開校式を迎える。磐田市と三島市に教室を設け、中学での勉強の学び直しを希望する生徒を受け入れる。1期生は10~70代の14人。教職員は開校準備を整え、「生徒の思いに応える学校をつくりたい」と胸を膨らませる。

開校に向け、教室のオンライン環境の確認作業を進める青木孝徳教頭(右)=3月30日、磐田市中泉のふじのくに中磐田本校
開校に向け、教室のオンライン環境の確認作業を進める青木孝徳教頭(右)=3月30日、磐田市中泉のふじのくに中磐田本校
 ふじのくに中はJR磐田駅から徒歩3分の複合商業ビル「天平のまち」3階に「磐田本校」を、JR三島駅に近い県立三島長陵高内に「三島教室」を設けた。県内どこからでも約1時間以内で通学できるよう、県内2カ所に教室を置いた。西田秀男初代校長(51)は「学び直したいという思いを持ち、勇気を振り絞って入学してくれる。その一歩を全力でサポートしたい」と話す。
 対象は義務教育を修了できなかった人や、不登校などで十分な教育を受けられないまま形式的に中学校を卒業した人、母国で義務教育を修了せず来日した外国人など。週5日、午後5時25分に始業し、40分の授業を1日4コマ行う。日本語のレベルに合わせて3コースに分かれ、国語や数学、美術、保健体育など中学3年間の授業を受けられる。課程を修了すれば、卒業資格が得られる。
 「教職員が総出で準備した」と話す青木孝徳教頭(48)は、「年齢、性別、国籍など多様な生徒が学ぶ場。多面的な考えに触れられるように工夫したい」と意気込む。磐田本校と三島教室は同じ時間に同じ内容の授業を進めつつ、両教室をオンラインでつなぐことも想定する。生徒同士の意見交換などで活用を見込み、学びを深める機会にできればとの思いがある。
 1期生の入学予定者は磐田9人、三島5人で、約8割が外国にルーツがあるという。県教委は潜在的にもっと多くのニーズがあるとみて、情報発信にも力を入れていく。

 <メモ>文部科学省によると、2022年10月現在の全国の夜間中学設置数は15都道府県に40校。今年4月には、ふじのくに中学校を含め全国で4校が新たに開校する。国は16年成立の教育機会確保法に基づき、各都道府県と各政令市に少なくとも1校の設置を促している。同校のホームページの文章は漢字に読み仮名を振るなどの配慮がされ、入学案内は英語、スペイン語、中国語など多言語で記している。
(政治部・大沼雄大)
〈2023.4.7 あなたの静岡新聞〉

社説 不登校の「形式卒業者」増える恐れ 学ぶ機会の保障不断に

 静岡県は来月(※2023年3月)、初の夜間中学「ふじのくに中学校」を開校する。磐田本校、三島教室合わせて10~70代の14人が入学予定という。

 戦後の混乱期に義務教育を受けられなかった高齢者はもとより、不登校の児童生徒、増え続ける外国人住民に基礎的な教育機会を保障する場として、文部科学省は夜間中学を重視。2021年2月から全都道府県と政令指定都市に設置を促した。
 ふじのくに中学も、この流れの中で生まれた。1期生の約8割が外国ルーツといい、この傾向は全国同様だ。
 ただ、文科省の22年調査で、夜間中学に通う生徒のうち、日本国籍の人が増えていることが分かった。不登校で十分に学べなかった日本人の学び直しの選択肢として認識されるようになったのなら、学びの機会の保障に不断に取り組むことが必要ということだ。
 そもそも、日本語の読み書きに不安を抱えながら暮らしている人はどれくらいいるのか。国立国語研究所が全国規模の識字調査を計画している。
 そのような調査は戦後間もない1948年に米国の教育使節団からの提案で、15~64歳の約1万7千人を対象に実施され、日本人の識字率は極めて高いとする報告書がまとめられて以来、行われていない。
 国内の識字率は長らく、ほぼ100%といわれてきたが、昨年5月に公表された2020年国勢調査では、最終学歴が小学校など「義務教育未修了」の人が90万人近くに達した。不登校や親の虐待によって十分な教育を受けられず、形式的に卒業しただけの人も一定数いるとみられている。
 さまざまな事情から学びに困難を抱えている人が相当数いることは否定しようがない。国は人材、資金の両面から夜間中学の設置をこれまで以上に後押しするなど学び直しの機会拡充を急ぐ必要がある。地方自治体も重要課題として取り組まなければならない。静岡県は、識字調査の結果を待つことなく中部地区への夜間中学設置の検討を始めてもらいたい。
 全国の国公私立小中学校で21年度に30日以上欠席した不登校の児童生徒は24万4940人。前年度より4万8千人余り増え、過去最多となった。
 十分に学べない「形式卒業者」が増える恐れもあり、文科省は夜間中学とともに、不登校の子どもに適した特別な教育課程を組める不登校特例校も全都道府県と政令指定都市に設置することを目指しているが、昨年12月時点では、まだ10都道府県計21校に過ぎない。
 多様性を尊重する社会に、学び直しの機会の拡充は欠かせない。
〈2023.3.20 あなたの静岡新聞〉
 

「グローバル化時代の夜間中学」三島市の市民団体が講演

 外国籍の子供や社会的弱者を支援する三島市の市民団体「カサ・デ・アミーゴス」は2日(※2022年7月)、三島、磐田両市で来年春に開校予定の夜間中学をテーマにした講演会を同市民活動センターで開いた。

夜間中学について学んだ講演会=三島市民活動センター
夜間中学について学んだ講演会=三島市民活動センター
 静岡県立大の高畑幸教授が「グローバル化時代の夜間中学」と題して講演した。義務教育ではほぼ落第しない「年齢主義」の日本では、形式卒業により十分に学べない人も多いと指摘。教育制度が異なる外国から来た子どもたちも増加し、夜間中学の開設により「さまざまな理由で学べない人が学び直す機会になる」と強調した。
 全国40カ所で設置、検討されている夜間中学の状況について「公立中と同じ校舎を利用することが多い」「基本は3年間」などと説明し、映像も交えて子供から高齢者まで幅広く学ぶ現場を紹介した。同市などで外国出身の子供を支援する「のびっこクラブみしま」の石井千恵子代表も講演した。
〈2022.7.3 あなたの静岡新聞〉

1948年以来の全国識字調査実施目指す 夜間中学の生徒2割「日常生活に支障の恐れ」

 国立国語研究所(東京)が識字調査の1948年以来の全国実施を目指している。既に岡山などで、義務教育を受けられなかった人たちが通う夜間中学の生徒らを対象に実施。約2割が十分に読み書きができず「日常生活に支障の恐れ」との結果も出ている。最新の国勢調査では義務教育の未修了者が約89万人いることが判明したほか、不登校などで十分学べなかった「形式卒業者」もいるとされる。識字率の実態把握は学び直しの促進につながりそうだ。

香川県三豊市の公立夜間中学で実施された識字調査=2022年12月
香川県三豊市の公立夜間中学で実施された識字調査=2022年12月
 昨年7月、ボランティアのスタッフが教える岡山自主夜間中学校(岡山市)で、10~80代の生徒ら約40人がテストと向き合っていた。テストは熟語を選んだり漢字を書いたりする全90問。約1万7千人を対象とした48年の「日本人の読み書き能力調査」の語彙などを現代版に修正したものだ。
 調査を担った国語研の野山広准教授によると、義務教育以上を受けた人と比べるためスタッフも受験。平均点はスタッフが87・9点、生徒が79・3点だった。最低点は生徒の28点で、野山准教授は「2割ほどの生徒が識字に問題を抱えている可能性がある」と話す。
 国語研は昨年12月、香川県三豊市の公立夜間中でも調査を実施。2023年度には札幌市の自主夜間中や秋田県の日本語教室にも対象を広げる方針だ。この結果や、外国人の増加といった現代の社会情勢も踏まえてテスト内容を見直し、全国調査につなげたい考えだ。
 最新の20年国勢調査で最終学歴に関する自己申告制の回答項目に「小学校」が初めて加えられ、約80万人が選択。小中学校に在籍したことがないなどの「未就学者」も約9万人で、義務教育の未修了者は計約89万人に上る。戦後の混乱期で学校に通えなかった高齢者が多く、不登校などで授業を十分受けられず形式的に卒業した人も一定数いるとみられる。
 文部科学省は学び直しの場として都道府県と政令指定都市に夜間中の設置を促すが、公立夜間中は22年10月時点で15都道府県の計40校にとどまる。野山准教授は「識字率の実態を明らかにして、対策を講じる必要がある」と話した。

 日本人の読み書き能力調査 連合国軍総司令部(GHQ)の占領下だった1948年、日本語の読み書き能力を調べるため、無作為に抽出された15~64歳の男女約1万7千人を対象に実施した全国規模の識字調査。試験官の発音に合わせた言葉を漢数字や平仮名で書いたり、文章に合う熟語を選んだりする選択式と記述式の全90問。満点が4・4%、読み書きが全くできない0点の非識字者は1・7%だった。
〈2023.2.18 あなたの静岡新聞〉
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