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需要低迷やコスト高 静岡茶業界が直面する課題と打開策は

 農林水産省が2022年末に発表した農業算出額統計によると、21年の静岡県のお茶産出額は前年比32・0%増の268億円で、鹿児島を抑えて首位を保ったことが分かりました。例年より販売が堅調に推移した静岡茶ですが、需要低迷やコスト高に直面しています。製茶会社は消費者のライフスタイルの変化に合わせた新たな商品開発に注力しています。茶産業の課題と新たな販路を探る取り組みを1ページにまとめます。

需要開拓狙い新商品続々 「高価格」緑茶で勝負

 静岡県内の製茶会社が緑茶飲料を瓶に入れたボトリングティーや高級ティーバッグなどの高価格帯商品を相次いで発売している。急須を持たない世帯が増えて緑茶の消費が伸び悩む中、開発を重ねて需要開拓を進める。新型コロナウイルス禍からの飲食・宿泊業の復調を追い風と捉え、新たな販路を探る動きも生まれている。

カネス製茶が開発したボトリングティー。製法を研究して豊かな香りや風味を抽出した=2022年12月、島田市
カネス製茶が開発したボトリングティー。製法を研究して豊かな香りや風味を抽出した=2022年12月、島田市
 カネス製茶(島田市)は2022年、ボトリングティーの新ブランド「イブキ・ボトルドティー」を立ち上げた。製茶工場内に専用ラインを整備。高温加熱殺菌せずに微細なフィルターでろ過することで、茶葉本来の豊かな香りや風味を残す技術を導入した。  希少品種のボトリングティー  自社研究茶園で開発した、希少品種「金谷いぶき」のボトルは750ミリリットル入り2万4840円。香りに特徴がある品種「香駿」(1万2960円)や和紅茶(1万800円)もそろえ、電子商取引(EC)サイトで販売する。
 ノンアルコール飲料市場拡大を踏まえ、料理店や旅館への卸販売も進める。事業担当の小松元気さん(28)は「高級日本酒のような、特別なひとときに楽しむ一杯としてPRしていく」と話す。  上質なティーバッグ  今までにない上質なティーバッグを-。丸七製茶(藤枝市)が手軽かつ本格的な日本茶のあり方として新たに挑んだのがティーバッグ茶作りだ。うま味成分「テアニン」を豊富に含む香り高い茶葉を探し求め、約3年かけてきり箱入りの「前代未聞」(40袋1万2960円)を生み出した。鈴木成彦社長(58)は「世界一濃い緑茶。お茶が好きなすべての人に届けたい」と語る。  こだわりのリーフ  急須でいれるリーフ茶にこだわる動きもある。佐々木製茶(掛川市)は22年12月、「かごよせプレミアム」(70グラム3240円)を発売した。新芽を1枚ずつ手で摘んで仕上げた深蒸し煎茶で、贈答需要に応える価格に設定した。佐々木余志彦社長(64)は「好みの温度で飲み、緑茶のおいしさを再認識してもらえれば」と語る。(経済部・平野慧)
 〈2023.1.16 あなたの静岡新聞〉

品質良く販売堅調も、需要低迷やコスト高に直面

 ※2022年12月28日 あなたの静岡新聞 

静岡県と鹿児島県の茶産出額と荒茶生産量の推移
静岡県と鹿児島県の茶産出額と荒茶生産量の推移
 農林水産省は27日、2021年の農業産出額統計を発表した。静岡県の茶は前年比32・0%増の268億円で、239億円(20・7%増)にとどまった鹿児島を抑えて首位を保った。本県は一番茶、二番茶共に生育が良好で、品質評価も高かったことから例年より販売が堅調に推移した。
 産出額は農家が収穫した生葉と、生葉を製品の前段階で加工、乾燥させた荒茶の販売額の合計。本県は生葉が147億円(24・5%増)、荒茶121億円(42・3%増)と伸びた。2位鹿児島は生葉152億円(16・9%増)、荒茶87億円(27・9%増)だった。
 前年の20年は新型コロナウイルス禍と新茶シーズンが重なり、製茶問屋は仕入れをストップし、茶工場は生産量を抑えた。一方、巣ごもり需要で茶の販売は伸長。総務省家計調査の「1世帯当たりの緑茶購入量(2人以上の世帯)」は19年比4・5%増の827グラムを記録した。出荷数量が増えた問屋の在庫が少ない状態で21年新茶期が始まり、引き合いは安定した。
 本県の茶産出額は862億円を記録した1992年以来、下落傾向にある。251億円に終わった2019年は、252億円の鹿児島に首位の座を明け渡した。
 20年産出額で首位を奪還。21年も堅持したが、足元の茶業経営は需要低迷に加え、コスト高に直面している。県お茶振興課の増田浩章課長は「茶業の持続・発展に向け、ペットボトル飲料の原料需要への対応や、輸出拡大を見据えた有機栽培普及などを進めていく」と話す。(経済部・平野慧)

潜在需要は大きい、売り方工夫を 全国茶商工業協同組合連合会理事長・成岡揚蔵氏

 ※2022年6月5日 あなたの静岡新聞

成岡揚蔵氏
成岡揚蔵氏
 長期的な消費低迷や生産者減少といった茶業界を取り巻く課題は、静岡県以外にも共通する。22都道府県の茶業者の組合でつくる全国茶商工業協同組合連合会(全茶連)の成岡揚蔵理事長(協和製茶・静岡市)は「潜在需要の開拓に向け、売り方や消費者のマインドを改めて考え抜く必要がある」と指摘する。
 -ことし(※2022年)静岡県の一番茶シーズンを振り返って。
 「雨の影響で品質が下がり、前年比で平均単価は安く終わった。農家収入の減退は生産現場の縮小につながり、中長期的に需給バランスが崩れる懸念がある。消費拡大に向けた地道な努力を積み重ねていく」
 -現在の業況は。
 「全国的にリーフ茶需要が伸びず、都内などの消費地では茶専門店が減少している。在宅勤務の定着でオフィス街のコンビニで買い物をする会社員が減るなど、ペットボトル飲料の売れ行きにも不透明感がある。ただ、潜在的な需要は大きい。5月に静岡市で開かれた日本茶のPRイベントでは、50グラム500円のリーフ茶がよく売れたという。100グラムの茶を千円で買う人は多くないが、消費者が求めやすい価格設定やサイズ感を考え、売り場を整えることで商機は広がる」
 -全茶連の活動を通して感じることは。
 「2019年度に食品の衛生管理の国際基準『HACCP(ハサップ)』に関する手引書を作った。茶業者の関心は高く、安心、安全な食品であることを保証して販売するための基準を再確認する上で活用された。茶業者の中には資金的な面で余裕がない会社も多く、新規事業に踏み出せないケースがある。政府方針で海外輸出に向けた行政の支援策は豊富だが、国内販売振興のための補助事業は多くない。茶商工業者の競争力強化のために後押しがほしい」
 -今後の展望を。
 「外国人観光客の需要に応えていきたい。全茶連が事務局を務める茶需要創出推進協議会では、静岡など主要6都府県のお茶カフェや専門店を紹介する『お茶体験案内マップ』の日本語・英語版を作成した。今後紹介する産地を拡充し、文化としての茶業をPRする。個人的には、お金を出してお茶を飲む習慣を大事にしてほしいと感じる。静岡市などで増える日本茶カフェはその好例だ。若い世代にお茶の魅力に触れてもらうための努力を続けたい」(聞き手=経済部・平野慧)
 なるおか・ようぞう 慶応義塾大商学部卒。1979年、協和製茶(静岡市葵区)入社。2003年社長。県茶商工業協同組合理事長などを経て、19年から全国茶商工業協同組合連合会理事長。68歳。
 ※内容は当時のまま
地域再生大賞