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静岡県西部大雨 被害状況まとめ 初発令「緊急安全確保」とは

 浜松市や磐田市で2日正午ごろから局地的に激しい雨に見舞われ、道路の冠水や家屋の浸水などの被害がありました。浜松市では「緊急安全確保」が初めて発令されました。被害状況をまとめるとともに、秋の台風期に備えて「緊急安全確保」とは何か、おさらいしておきたいと思います。
 〈キュレーター:編集局未来戦略チーム 渡部遥介〉

住宅など96軒浸水 浜北区では1時間に118ミリの豪雨

 浜松市や磐田市で2日正午ごろから局地的に激しい雨が降り、両市に記録的短時間大雨情報が発表された。浜松市浜北区ではレーダーの解析で、正午からの1時間に118ミリの豪雨を記録。浜北区と東区を中心に住宅など96軒の浸水が報告され、各所で道路が冠水した。浜松市は浜北区の矢矧(やはぎ)橋付近で馬込川の越水が確認されたとして、約17万世帯約41万人を対象に5段階ある警戒レベルで最高の避難情報「緊急安全確保」を市内で初めて発令した。けが人は確認されていない。

大雨の影響で冠水した現場=2日午後2時20分ごろ、浜松市浜北区
大雨の影響で冠水した現場=2日午後2時20分ごろ、浜松市浜北区
 浜松市によると、浸水被害は浜北区や東区の馬込川流域にほぼ集中した。本川の水位が上昇し、支川の水が流入できずにあふれる内水氾濫が付近一帯で発生したとみられる。
 冠水のため、市道7路線で一時、通行止めとなった。市消防局には「車が水に漬かって閉じ込められた」などの通報が相次ぎ、4件を救助対応した。
 市は緊急避難場所22カ所を開設し、7人が避難した。午後6時の避難情報解除に伴い、ほぼ閉鎖した。住宅街の浸水は解消されつつあるという。
 JR東海によると、この大雨が東海道新幹線76本の運行に影響し、最大89分の遅れが出た。東海道線は8本が運休、16本が部分運休、8本に最大156分の遅れが出た。浜松市の遠州鉄道は正午すぎから5時間ほど全線で運転を見合わせた。複数の踏切で制御装置が水に漬かり、手動で開閉する係員を配置し運行した。東名高速道袋井インターチェンジは上下とも一時閉鎖した。浜北区の新東名高速道浜松上りサービスエリアでは建物に浸水、店舗部分が約2時間営業を中止した。
 落雷も相次ぎ、袋井市山崎の児童養護施設「まきばの家」では午後1時40分ごろ、施設の電話設備の一部が焼ける火災が発生した。浜松市、掛川市、袋井市の約2400戸で停電が発生した。

住宅街の状況は? 短時間で冠水「七夕豪雨以来では」

 2日正午ごろから、県西部を襲った突然の豪雨。浜松市浜北、東区などで道路7路線が冠水して通行止めとなり、100軒近い家屋や店舗に浸水被害をもたらした。住民は慣れ親しんだ生活の場が短時間に水であふれ変貌した状況に驚き、雨脚が弱まると片付けに追われた。「こんなに降ったのは七夕豪雨(1974年7月)以来では」とショックを受ける高齢男性もいた。

局地的な大雨の影響で冠水した道路を帰宅する学生ら=2日午後2時53分、浜松市浜北区小林
局地的な大雨の影響で冠水した道路を帰宅する学生ら=2日午後2時53分、浜松市浜北区小林
 浜北区では午前11時ごろから降り始め、午後0時半には視界を遮る土砂降りになった。付近から水があふれた馬込川の矢矧(やはぎ)橋北東の市道は、大人の膝上まで水に漬かった。
 道沿いにある同区小林の美容院はレジ付近が浸水。長ズボンをまくった従業員らは雨脚が弱まった3時ごろ、店の外へ水を掃き出した。女性美容師は「水のせいでパソコンやエアコンが壊れるかもしれない」と困惑していた。
 同区平口で橋の南東の一軒家に住む男性(80)は自宅前の様子を「茶色い川みたいになった」と説明する。周辺では七夕豪雨で被害を受けたのを機に、かさ上げした住宅も多い。歴史的な豪雨以来の大雨に「大きな被害が出ないといいが」と心配した。同区貴布祢で橋の東に住んでいるという女性(50)の家は約7年前も雨の被害を受けた。「今回も床下は浸水しているだろう」と表情を曇らせた。
 同市東区笠井町では商業施設に入居する複数の店舗内で数センチの浸水が確認された。クリーニング店の50代の女性従業員は「昼すぎに外の水がじわじわ入ってきて、そのうちにどっと流れてきた」と振り返る。雑貨店は臨時休業し、知らずに訪れた30代の男性は「生まれてからずっとこの地域に住んでいるが、こんな水害は初めてで怖い」と話した。
 〈2022.09.03 あなたの静岡新聞〉

局地的降雨なぜ? 「緊急安全確保」とは?

道路冠水の影響で、動けなくなった車両=2日午後4時ごろ、磐田市西貝塚の市道富士見台中泉幹線(写真の一部を加工しています)
道路冠水の影響で、動けなくなった車両=2日午後4時ごろ、磐田市西貝塚の市道富士見台中泉幹線(写真の一部を加工しています)
 ■積乱雲、狭い範囲で次々発生か
 浜松市や磐田市で2日、局地的に激しい雨が降ったことについて、日本気象予報士会静岡支部長の気象アドバイザー藤井聡(あきら)さんは、県西部の狭い範囲で次々と積乱雲が発生したことが原因との見方を示した。
 藤井さんによると、南方から太平洋高気圧の周りにある湿った暖かい空気「縁辺流」が秋雨前線に向かって北上するとともに、北からは約6千メートルの上空にある寒気が南下した。このため大気の状態が非常に不安定になり、積乱雲が発生しやすい状態だったという。こうした状況下で積乱雲が発達し、局所的な大雨をもたらしたのではと推測する。


 ■緊急安全確保とは
 災害時に自治体が発令する避難情報のうち、最も災害の危険度が高い「警戒レベル5」に相当する。災害が発生または切迫し、住民は命の危険が迫っているため、直ちに身の安全を確保しなければならない。2021年に運用が始まり、県内で発令されるのは熱海市伊豆山で発生した大規模土石流以来、2例目。自治体の避難情報には、レベル3相当の「高齢者等避難」、レベル4に当たる「避難指示」がある。レベル4までに避難を済ませる。
 〈2022.09.03 あなたの静岡新聞〉
 

浜松市初の緊急安全確保 馬込川、堤防から越水前に判断

 浜松市が2日、同市として初めて発令した警戒レベル5の「緊急安全確保」の判断は、馬込川が堤防から越水する前に行われたことが市への取材で分かった。市は越水後に即座に住宅地に浸水し、避難の際に危険が伴うとみて発令を決めた。

急増水する馬込川 浜松市浜北区の矢矧橋付近に設置された監視カメラの画像(浜松市のホームページから) 2日午前11時半ごろ
急増水する馬込川 浜松市浜北区の矢矧橋付近に設置された監視カメラの画像(浜松市のホームページから) 2日午前11時半ごろ
 市危機管理課によると、市は浜北区の矢矧(やはぎ)橋付近の河川カメラの映像で、水位が堤防と同じ高さにまで増水している状況を確認し、その段階で緊急安全確保の発令を決定した。午後0時55分に約17万世帯約41万人に警戒レベル4の「避難指示」を出していたが、20分後の1時15分、緊急安全確保に切り替えた。市はその後、実際に越水した状況を確認したという。
 内閣府のガイドラインでは、緊急安全確保は災害が発生・切迫した際、避難することがかえって危険な状況になる場合に出すことができる。緊急安全確保の発令後、矢矧橋付近の道路は冠水し、避難所などへの避難は困難だったとみられる。
 同課の担当者は「緊急安全確保の発令は総合的に判断した。効果や検証は難しいが、人命に関わるような被害がなくてよかった」と話した。
 〈2022.09.03 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞