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絶滅危惧種のベッコウトンボ 磐田で輝く

 環境省の絶滅危惧種に指定されているベッコウトンボ。磐田市の桶ケ谷沼で3月、今季初の羽化が確認されました。現存する生息地は国内数カ所で、磐田市は日本最東端の生息地とのことです。地元での保全活動が功を奏し、個体数も増加しています。ベッコウ色に輝くトンボの魅力に迫ります。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・寺田将人〉

今季初の羽化確認は3月下旬

 磐田市桶ケ谷沼ビジターセンターは5日(※3月5日)までに、環境省の絶滅危惧種に指定されている希少種ベッコウトンボの今季初となる羽化を3月下旬に確認したと発表した。現存する生息地は国内数カ所で、同市は日本最東端の生息地という。

羽化したベッコウトンボ=磐田市岩井(桶ケ谷沼ビジターセンター提供)
羽化したベッコウトンボ=磐田市岩井(桶ケ谷沼ビジターセンター提供)
 市や同センターによると、3月25日正午ごろ、NPO法人桶ケ谷沼を考える会が保全活動に取り組んでいる沼の南部で、内野茂喜所長が見つけた。30日にも沼の北部で発見された。3月中に羽化が確認されるのは9年連続。
 現在、桶ケ谷沼からの自然発生は少なく、保全のために設けたコンテナやいけすでの羽化がほとんど。市から委託を受けた管理運営委員会が保全活動に努めている。羽化は4月下旬まで続く見込み。下旬に個体数の調査会を行う。
 〈2022.04.06 あなたの静岡新聞〉

24年ぶり個体数300匹超確認 保全活動が奏功

 磐田市は11日までに、同市岩井の桶ケ谷沼で2022年に確認された希少種「ベッコウトンボ」の個体数が、380匹だったと発表した。300匹を超えたのは、450匹だった1998年以来24年ぶり。

ベッコウトンボの調査をした参加者=磐田市岩井の桶ケ谷沼
ベッコウトンボの調査をした参加者=磐田市岩井の桶ケ谷沼

 ベッコウトンボは環境省の絶滅危惧種に指定されていて、種の保存法に基づき捕獲や採卵が禁止されている。生息地は国内数カ所で、同市は日本最東端の生息地。4月下旬、桶ケ谷沼で県、市、桶ケ谷沼ビジターセンターのほか、地元団体の専門家が調査した。
 2020年は23匹、21年は67匹だった。市桶ケ谷沼ビジターセンターによると、20年以降、外敵からヤゴを守るため沼周辺に繁殖用コンテナを設け始め、設置数を増やしてきた保全活動などが功を奏した。内野茂喜所長は「地道な活動の成果が出た。今後は沼からの発生を目指したい」と話した。
 市によると、調査会は2日間実施。そのうち、多く確認できた日をその年の数としている。専門家が目視で成虫が飛ぶ姿を数えていて、羽化した総数ではない。
 〈2022.05.12 あなたの静岡新聞〉
 

【写真・動画特集】空に舞うベッコウトンボ

飛びながら交尾をするベッコウトンボの雄(前)と雌=4月中旬、磐田市の桶ケ谷沼
飛びながら交尾をするベッコウトンボの雄(前)と雌=4月中旬、磐田市の桶ケ谷沼
 ウグイスの鳴き声が響く穏やかな朝、羽化したばかりの透明の羽が陽光にきらめく。4月上旬、磐田市の桶ケ谷沼でベッコウトンボが舞い始めた。早朝は、沼地の近くの草地に止まり、気温が上がる午前10時ごろから水面近くに現れる。雄は水辺近くで縄張りをつくり、雌を待つ。
 
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成熟したベッコウトンボの雄=4月中旬

 飛びながら交尾し、十数秒で終わる。雌は腹の先を水面に繰り返し打ち付けて産卵する。雄は上空で見守る。2、3週間でふ化し、約10カ月間にわたり、水中で幼虫(ヤゴ)時代を過ごす。
 
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水面に腹の先を打ち付け、産卵するベッコウトンボの雌=4月中旬

 環境省の絶滅危惧種に指定されているベッコウトンボ。未成熟の成虫の体色と羽の一部の模様が「ベッコウ色」であることに由来している。体長は約3・8センチ、羽を広げた大きさは約7センチ。羽化の時期は3月下旬~4月下旬。羽化して10日ほどで成熟し、雄は黒、雌は焦げ茶色に変わる。
 
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近くの草むらに止まる、未成熟のベッコウトンボ=4月上旬

 ■生息確認は静岡県含め5県のみ
 
 ベッコウトンボは池沼の埋め立てなど植生や営農環境の変化を受けて全国で生息地が減少し、現在は本県と山口、福岡、大分、鹿児島の5県のみで生息が確認されている。1994年に昆虫で初めて、国内希少野生動植物種に指定され、採集は原則禁止。
 桶ケ谷沼では、外来種のアメリカザリガニなどの影響を避けるため、保護繁殖用のコンテナやいけすなどを設けて保全に努める。自然発生を目指す活動を続けているが、近年の個体数は、保全の効果によって大幅な減少を食い止めているというのが現状だ。
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羽化するベッコウトンボ。羽に体液を送り込むことで徐々に広がっていく。およそ2時間で羽を広げる=4月上旬
 〈2022.05.10 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞