難波副知事退任へ リニア問題や土石流災害で手腕
静岡県は5月17日に任期満了を迎える難波喬司副知事について、再任しない方針を固めました。2期8年にわたって川勝県政を支えた難波副知事。港湾や土木政策に詳しく、特にリニア中央新幹線工事を巡る対応や熱海土石流災害では中心的役割を果たしてきました。難波副知事のこれまでを振り返ります。
〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・吉田直人〉
5月17日任期満了 退任後も県政に関与か
静岡県は19日、5月17日に任期満了を迎える難波喬司副知事(65)を再任しない方針を固めた。県は後任の人選を進めている。

難波氏は1981年運輸省(現国土交通省)入省。技術総括審議官などを歴任して退職し、2014年5月に副知事に就任した。現在2期目。
港湾政策の専門家として手腕を発揮し、リニア中央新幹線工事に伴う大井川の流量減少問題や、熱海市の大規模土石流災害の対応では陣頭指揮を執った。
〈2022.04.19 あなたの静岡新聞〉
■難波副知事、どんな人?
国土交通省の大臣官房技術参事官、技術総括審議官を経て同省を退職し、5月16日(※2014年)付で副知事に就任した。川勝平太知事とは同省有識者会議で学者と官僚として知り合って以来、交流が続いた。知事について「人格も含めて最も尊敬する方。考えの広さや世界観に感銘を受けた」と語る。
就任当日の臨時部局長会議では、課題の「解説」「解明」と「解決」の違いについて持論を展開した。「県の職員は行政のプロであり、課題について解説や解明をしても県民にとって何もいいことはない。問題を解決することが大事」と強調する。
担当分野の柱は危機管理。静岡は防災先進県とされているが、南海トラフ巨大地震の被害想定が出たことで「これまでの発想を変えなければいけない」との認識を示す。対策についても「絵に描いた餅では何もならない。災害時に本当に機能することが大切」と指摘する。
スキー、山歩き、テニス、旅行と趣味は多彩。伊豆にも何度も足を運んだ。「静岡は伊豆をはじめ潜在力がとても高い。地域全体が心地良い空間になるよう、さらに魅力を高めることが必要」と観光振興にも力を入れる考えだ。座右の銘は「知行合一」。岡山県出身。57歳。
〈2014.05.21 静岡新聞朝刊から抜粋〉※年齢は掲載日時点
2014年に就任 「異例づくめ」の副知事3人体制でスタート
川勝平太知事が1期目からこだわり続けてきた副知事3人制に向けた人事案が、15日(※2014年5月)の県議会臨時会で同意された。否決された2年前とは一転し、全会一致での議決。県幹部にも打ち明けずに極秘裏に進めた県議会への根回しや中央省庁OBの起用など「異例ずくめ」(県関係者)の川勝流で、念願の3人体制の実現にこぎ着けた。

「誰にも言っていないが、副知事を3人にしたい。いの一番で来た」。3月末、川勝知事は1人で議長室を訪れ、中谷多加二議長(当時)に自身の思いを伝えた。知事は「副議長や(自民県連)幹事長にも知事から直接、説明した方がいい」との中谷氏の助言を受け、副議長室にも後日、足を運ぶなどして根回しを進めた。
知事が4月に入って腹案として示したのが国土交通省出身の難波喬司氏と財務省出身の高秀樹氏の起用。県によると、中央省庁出身の副知事は全国で21人。うち自治体との関係が強い総務省が12人で最も多く、財務省は1人。現職のキャリア官僚が占める中、難波氏はOBで、高氏はキャリア組以外。県関係者は「副知事人事としてはかなり珍しい」と語る。
人事案を審議した15日の県議会総務委員会。自民改革会議の県議から「副知事増員を行革の面からどう説明するか」「人件費や住居費、副知事室整備などで負担はどれだけ増えるか」「新副知事は退職金を受け取るのか」などと、微に入り細をうがつ質問が続き、短時間で質疑を終えた他会派との違いが目立った。
3人制受け入れについて自民幹部は「県議選までは知事との対決はやめてほしいという内部の声にも配慮した」と明かす。別の幹部は「県には部長ら幹部職員もいるので、本当は副知事2人で十分にやっていけるはず」と語り、3人制の容認は期間限定になるとの見方を示した。
〈2014.05.16 静岡新聞朝刊〉
リニア問題、熱海土石流災害では陣頭指揮 土木、港湾政策に精通
難波喬司副知事は2日、リニア中央新幹線南アルプストンネル工事を巡る大井川流量減少問題について都内の日本記者クラブで会見し、県とJR東海のリスクに対する認識を「どの程度の環境影響評価を行うべきか同じ基準に立っていない。環境に影響を与える側のJRが、影響を受ける側の県の基準を受け止め、自らの基準を省みる必要がある」と強調した。

JRと県の見解が分かれている論点として①トンネル湧水の大井川水系外への流出②中下流域の地下水への影響③生態系への影響④トンネル掘削による残土処理の影響⑤トンネル湧水の量や地下水位の変化の予測精度―を挙げた。これらは「JRの検討が不十分な事項が多く残っている」とし、このため「対話に時間を要している」と説明した。
流量減少問題を議論している国土交通省専門家会議については「委員が極めて熱心に(JRを)指導している。分かりやすい資料も出てきているので、良い結論が出るのではないか」と期待した。
〈2020.10.03 静岡新聞朝刊から抜粋〉
■土石流災害、原因究明を指揮
熱海市伊豆山の大規模な土石流災害を巡り、県は今後、逢初(あいぞめ)川の土砂の成分分析を含めた科学的な原因究明と、業者が行政手続きを適正に行っていたのか両面で調査する方針だ。担当部署が多岐にわたるため、国土交通省出身で土木工事の技術面に詳しい難波喬司副知事を中心にチームを作り、熱海市の協力も得て実態解明を進める。
〈2021.07.10 あなたの静岡新聞から抜粋〉
一度は辞職意向も... 揺れた静岡市長選出馬
4月の静岡市長選への出馬が取り沙汰されていた難波喬司副知事(62)が4日(※2019年2月)の記者会見で不出馬を正式に表明し、同市長選は3期目に向けて出馬を表明した現職田辺信宏氏(57)に有力な対抗馬が現れないまま、3月24日の告示を迎える可能性が高まった。難波氏が市長選への態度を決められずに支援者の期待を引き延ばし、時間を浪費した格好だ。

「辞職願を破られました」。4日の記者会見で、難波氏は言葉を詰まらせた。川勝平太知事は同日、難波氏が出した辞職願を受理せず、慰留した。
直接の要求こそなかったが「知事の気持ちは分かっていた」と難波氏。出馬を望む川勝知事の意向は明らかだった。それだけに不出馬を決めた難波氏の辞職を認めれば「難波氏を追い込んだ」との批判が知事に向きかねない。辞職願を不受理としたことで、知事が自らへの批判を回避したとの見方がある。
知事は4日、報道陣に「不出馬なら辞表を出す必要はない。そこまで決意された潔さを了とする」と難波氏の決断を支持。一方で市長選について「まだ時間がある。やはり受け皿が必要だ」と対抗馬の必要性を強調した。
〈2019.02.05 静岡新聞朝刊から抜粋〉