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フェアトレードの取り組み広がる 静岡文化芸術大

 浜松市の静岡文化芸術大は2018年、開発途上国生産品を適正価格で取引する運動をする「フェアトレード大学」にアジアで初めて認定されました。学生らが取り組む多彩な普及活動を紹介します。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・安達美佑〉

フェアトレード大学認定 商品開発、教育活動を積極的に展開

 開発途上国の生産品を適正価格で公正に取引するフェアトレード運動に取り組む大学を認定する「フェアトレード大学認証」の認定機関「日本フェアトレード・フォーラム」(本部・東京都)は2日(※2018年2月)までに、静岡文化芸術大(浜松市中区)を国内第1号の認証大学に認定した。アジア地域の大学でも初という。関係者への取材で分かった。

フェアトレード憲章を発表する学生ら=浜松市中区の静岡文化芸術大
フェアトレード憲章を発表する学生ら=浜松市中区の静岡文化芸術大
 同大は2017年9月に同フォーラムに申請し、認定委員会の認定員が12月に同大を訪れ、現地調査を行った。1日夜にネット中継による理事会が開かれ、基準を満たしていると全会一致で認められたという。
 同大では、サークルなどで学生らが商品開発や地域での教育活動など多彩な普及活動を積極的に展開し、大学生協でフェアトレード商品を販売している。
 17年春からは認定基準の一つである「憲章」の策定に学生が着手。外国人が集住する地域特性を踏まえ、国内外あらゆる人々の平等を希求する姿勢を示した独自のフェアトレード憲章を定めた。
 同大がある浜松市も昨年11月、国内4都市目となるフェアトレードタウン認証を取得している。
 フェアトレード大学はフェアトレードの普及を図る大学に称号を与える民間の認証制度で、欧米を中心に170余の大学が取得。国内では14年に制度が創設された。「学生の普及団体の存在」「大学内外での教育活動」「大学によるフェアトレード商品の調達」「学内で購入ができる」「憲章策定」の五つが認定基準。

 〈メモ〉フェアトレード 「公正な貿易」の意味。発展途上国などの産品を適正価格で取引することで、経済的に弱い立場の現地生産者の生活改善や自立を目指す。フェアトレード商品にはチョコレートのほか、コーヒーや紅茶、手工芸品が多い。浜松市は2017年、県内で初めてフェアトレードタウンに認定された。
 〈2018.2.2 静岡新聞夕刊〉

コーヒー豆のカスから「カスカラティー」 2月から販売

 静岡文化芸術大(浜松市中区)の学生が25日、コーヒー生産時に廃棄される果皮部分を使った「カスカラティー」を商品開発し、学内でお披露目した。発展途上国の生産品を適正価格で取引するフェアトレード運動の一環で、同大生協などで2月1日から販売する。

商品の販売開始を報告した学生=浜松市中区の静岡文化芸術大
商品の販売開始を報告した学生=浜松市中区の静岡文化芸術大
 「カスカラ」はコーヒー豆の周りに付いている果肉や皮を乾燥させたもの。カスカラを焙煎(ばいせん)して茶葉に加工した。商品はドリップパックの方式で、上から湯を注いで〝お茶〟をいれる。
 廃棄されているカスカラの利用方法を考えたいと20年4月、学生ら25人でつくる「カスから生まれるプロジェクト」を立ち上げた。
 中米コスタリカのコーヒー生産者らと学生がオンラインでやりとりし、フェアトレードでカスカラを輸入。パッケージはデザイン学部の学生が担当し、2種類を用意した。カスカラが日本ではあまり知られていないことから、分かりやすさや親しみやすさを意識した図柄にしたという。
 カスカラでそのまま茶を出すと、酸味が強くなってしまう。市内の茶業者から「ほうじ茶のように焙煎すると酸味が消えることがある」と助言を受け、静岡市のフェアトレードショップに協力を依頼して、焙煎加工を取り入れた。
 同大文化政策学部2年の三ツ矢ゆりえさん(20)は「商品を通じて、日ごろ消費している物の背景を知ってほしい」と話した。
 1箱8パック入り、税込み650円。
 〈2022.1.26 あなたの静岡新聞〉

落花生や青ミカン、特産生かし商品化 「フェアトレードチョコ」

 浜松市内の学生らが地元企業などと連携して今月、発展途上国などの産品を適正価格で購入するフェアトレードのチョコレート商品を相次いで売り出す。フェアトレード輸入のフィリピン産カカオ豆を使ったチョコプロジェクトに取り組む静岡文化芸術大(中区)の学生は17日、コロナ禍の中で完成させた商品の販売を同大生協などで始めた。浜松調理菓子専門学校(同区)の学生は飲食店との共同開発商品を26日から、遠鉄百貨店(同区)のイベントに出品する。

チョコレートをパッケージに詰める「はままつチョコプロジェクト」メンバー=14日、浜松市浜北区
チョコレートをパッケージに詰める「はままつチョコプロジェクト」メンバー=14日、浜松市浜北区
 同大は2018年にアジア初のフェアトレード大学に認定され、学生有志の「はままつチョコプロジェクト」を始動した。フィリピンまで足を運び、農家からカカオ生産の現状や収入格差の実態を学ぶなどして商品化の準備を進めたが、完成予定だった20年度から新型コロナウイルスの影響が拡大した。それでも、あきらめずにオンラインで現地農家と連絡を取り続けた。
 待望の商品は、菓子メーカーの春華堂(同区)の協力で完成にこぎ着けた「ピナショコラ」。お茶味とハチミツ味の2種類で、浜松産の微粉末茶やハチミツ、落花生を使った。
 共同代表の一人、飯島愛奈さん(3年)は「商品をきっかけに、フェアトレードや地元の産品について知ってほしい」と期待する。
 浜松調理菓子専門学校の学生は昨年10月から、北区都田のカフェレストラン「レンリ」の呼び掛けで活動を始めた。同店パティシエと試作を重ね、ベルギー製フェアトレードチョコや同区三ケ日町の青ミカンを使った生チョコレートを作った。中村茜さん(1年)は「自分たちが手掛けた商品が販売されるのはうれしい」と喜ぶ。
 学生らのチョコは同百貨店で26日~2月14日開催予定の「アムール・デュ・ショコラ」に登場する。同専門学校の「青ミカン生チョコ」は初日から、同大の「ピナショコラ」は2月5、6日に会場に並ぶ。
 〈2022.1.17 あなたの静岡新聞〉

浜松らしく運動広まれ 静岡文化芸術大教授・下沢嶽氏インタビュー

 静岡文化芸術大(浜松市中区)で国際協力活動の実務者の育成や、開発途上国の製品を公正に取引する「フェアトレード運動」などを推進する。市内の事業者らによる組織「はままつフェアトレードタウン・ネットワーク」の設立にも携わった。現在、全国4都市目のフェアトレードタウン認証と国内初のフェアトレード大学認証の取得に向けた作業の中心的役割を担う。

下沢嶽氏
下沢嶽氏

 ―認証取得を目指す狙いとは。
 「学生が気軽に、長期的に取り組める国際協力活動として、学生団体がフェアトレード商品の開発やカフェ運営などを展開してきた。ただ、地域の核になるような元気な販売店は少なく、活動の定着にはビジネスとして成立することが重要になっている。認証を打ち出すことで、個別に活動していた店同士の連携が強化され、発信力が強まる。認証というお墨付きを得ることで、資材を調達する企業側の活用が広まることも期待する」

 ―他都市と比較して浜松の独自性は何か。
 「全国有数を誇る農業分野での地産地消、障害者・高齢者の雇用、ブラジル人をはじめとした在住外国人との連携、大企業の資材調達の促進など、地域の特性を生かした取り組みができると考えられる。各種団体と連携し、いかに地域で活動を展開できるか考えていきたい」

 ―市内の意識の高まりと将来の展望は。
 「行政や市民がフェアトレード運動に理解はある。ただ、総合的な専門店はなく、まだまだ途上段階。ビジネスの成功例が必要だ。現在の消費者運動には生産や流通、消費が地球規模で見て持続可能かという倫理的な視点が欠かせなくなった。こうした観点から、東京五輪組織委員会でも食材や資材の調達に基準が設けられている。今後、地方自治体や民間企業の物資調達でもこうした意識が自然と高まっていくだろう」

 ―大学が参画することの意義をどう考えているか。
 「英国での調査で大学が果たす役割が重要だと実感した。損得に関係なく活動する学生の存在は大きい。大学は、行政でも企業でもない独自な存在として、地域課題の解決に貢献できるはずだ。フェアトレードが入り口となり、浜松という都市が、持続可能社会に向けたソーシャルビジネスを起こす人材が次々と現れる街になることを願っている」
 しもさわ・たけし
 バングラデシュなどの貧困問題に取り組むNGOで駐在員や事務局長を経験。2010年に静岡文化芸術大に。日本フェアトレード・フォーラム理事。58歳。
 〈2017.8.18 静岡新聞朝刊〉
地域再生大賞