一転容認 知事選へ余波は 先行きは依然見通せず 掘削前調査「ボーリング」巡り静岡県専門部会【大井川とリニア】

 リニア中央新幹線トンネル工事で、掘削前に地質や湧水の状況を調べるためにJR東海が実施する高速長尺先進ボーリングについて、静岡県専門部会は13日、山梨県から県境を越えて県内で実施することを認めた。長く停滞していた議論が前進し、26日投開票の知事選での論戦もさらに熱を帯びそうだが、事業の進捗(しんちょく)は調査の結果次第で大きく左右され、先行きは依然、見通せない。

高速長尺先進ボーリングを巡るこれまでの議論の経緯
高速長尺先進ボーリングを巡るこれまでの議論の経緯
リニア工事 山梨・静岡
リニア工事 山梨・静岡
高速長尺先進ボーリングを巡るこれまでの議論の経緯
リニア工事 山梨・静岡

 ボーリングを巡っては県が水資源への影響を懸念し、山梨県側の県境300メートル区間の実施も含めて認めてこなかった。これに対して、ボーリングが実施される山梨県の長崎幸太郎知事が「流出する水の量は微量だ」と強く反発したほか、県と「一体」であるはずの大井川流域市町の首長からも「調査してみないことには何も分からない」(染谷絹代島田市長)と疑問を呈する声が公然と上がった。
 ボーリングを行っても、無条件でトンネル工事が進むわけではない。JRの過去の調査で本県側の県境付近に少なくとも幅約800メートルの大規模破砕帯が確認され、JRもこの箇所で大量の突発湧水が発生する可能性を認めている。ボーリングはこの破砕帯の状況を調べる目的が大きい。
 国専門家会議が2021年12月にまとめた水資源に関する中間報告は、破砕帯掘削中に大量湧水が発生して山梨県に流出しても、静岡工区工事のトンネル湧水全量を大井川に戻せば、中下流域の河川流量は維持されるとの見解をまとめた。ただ、JRが想定する地質状況の場合との条件付きだった。13日の県専門部会でも、丸井敦尚委員(地下水学)がボーリング実施に伴うJRの水資源のリスク管理を評価しつつ、「ステージが変わり、トンネルを掘る時の対策はこの限りではない」とくぎを刺した。
 JRはトンネル湧水の県外流出対策として、県外流出するのと同じ流量分について、大井川からのダム取水を抑制する「田代ダム取水抑制案」を提示している。ボーリングの結果によって、この案の有効性も明らかになる。
 知事選では、政党の公認、推薦を受ける候補者のうち、共産党県委員長森大介氏=同党公認=は「大井川の水と南アルプスの自然を守る」とリニア事業中止の公約を掲げる。元浜松市長鈴木康友氏=立憲民主党、国民民主党推薦=と元副知事大村慎一氏=自民党推薦=は、ともに水資源、南アルプスの環境保全を前提にリニア事業推進の立場。鈴木氏は「課題を克服して推進する姿勢で(議論を)進める」、大村氏は「1年以内に解決のめどをつける」と訴えている。
 (政治部・尾原崇也)

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