大自在(4月21日)藤

 結婚時に夫婦どちらかの姓を選ぶ現行制度を続けると、約500年後には日本人の姓がみんな「佐藤」になる可能性があるという東北大教授の試算結果が公表された。選択的夫婦別姓の実現を目指す団体の活動の一環。
 日本で平民に名字の使用が許可されたのは150年ほど前だから、500年とは随分先だ。「伝統」と言われているものが思い込みにすぎないことは少なくない。最近は調査のたびに選択的夫婦別姓に賛成する回答が増えている。
 佐藤や伊藤、加藤など「藤」の付く名字は藤原が始まりとされる。佐藤は官職「左衛門尉[さえもんのじょう]」の藤原氏が起源という説がある。放送中の大河ドラマには、道長はじめたくさんの藤原姓が登場する。直筆の古今集注釈書が発見された鎌倉時代を代表する歌人藤原定家は道長の5代下の孫に当たる。
 「藤」の音読み「トウ」を固有名詞以外で使うのは「葛藤」くらいだと、漢字研究者の円満字二郎さんは気付いた。葛藤とは葛[くず・かずら]や藤のつるが絡まり合うところから生まれた表現だと思っていたが、漢和辞典で「藤」を引いたらつるの意味もあった(「漢字の植物苑」)。
 「お伽[とぎ]草子」の「藤袋の草子」という説話で、翁の失言のせいで大猿の嫁にとさらわれた娘は、フジのつるで編んだかごに入れられて大木につるされた。フジは昔から花が愛されただけでなく、つるも身近だったようだ。
 藤枝市の市名は、平安後期の和歌に由来する。蓮華寺池公園のフジが見頃を迎えた。「藤まつり」初日、花だけでなく、丹精の枝ぶりにも注目して散策した。

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