「機動戦士ガンダム」のリュウ・ホセイ 人間社会のリアリティー宿す【アニメ脇役列伝 1970年代編⑫】

 2024年4月はちょうど「機動戦士ガンダム」放送開始45周年に当たる。同作は、当時の10代に大きなインパクトを与えた作品だった。
 そのインパクトの一つが、それまでのアニメを上回る、人間関係の生々しい描写だ。内向的な性格なのにガンダムに乗って戦わざるを得なくなったアムロ。正規の軍人が全員戦死したため、ホワイトベースの艦長を務めざるを得なくなった士官候補生のブライト。敵対するジオン軍から逃げ回る極限状況の下、2人はしばしばぶつかり、それが作品前半にヒリヒリとした緊張感を与えていた。
 このときの調整役がパイロット候補生のリュウ・ホセイだ。リュウがホワイトベースの要であることがはっきり描かれるのが第19話「ランバ・ラル特攻」から第21話「激闘は憎しみ深く」までの3話だ。
 ブライトとの対立からガンダムを持ち出したアムロは独房に入れられる。戦闘になれば自分が必要になるくせに、とブライトの足元を見るような言い方をするアムロに、リュウは、自分だってもうガンダムは扱える、と厳しい一言をいう。一方で「野生のトラだって檻[おり]に入れておけば自分の立場が分かってくる」と固い態度のブライトには「人間には言葉があるんだ」とアムロと話し合うよう促す。さらに独房で自分を省みたアムロのもとにも訪れて、「ブライトがな、おまえは野生のトラだっておっかながっていたよ」と、ブライトが内心はアムロを評価していることも伝える。これがリュウの最後の大仕事だった。
 リュウのような人物がいるからこそ、組織が円滑に回ることも多々ある。リュウの描き方には、単にヒリヒリとした生々しさにとどまらない、人間社会のリアリティーが宿っていた。リュウというバイプレイヤーが「ガンダム」という作品を豊かにしていたのだ。
 (藤津亮太・アニメ評論家=藤枝市出身)
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 筆者はSBSラジオ「TOROアニメーション総研」(毎週月曜午後7時)出演中。SBS学苑パルシェ校で24日に講座「アニメ映画を読む」。テーマは「すずめの戸締まり」。

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