周産期心筋症 発見早期に 妊娠、出産期に心機能低下 兆候の息切れ 注意

 妊娠、出産期で既往症のない女性の心機能が低下し、心不全の状態になる周産期心筋症。国内での年間発症例は少ないが、罹患[りかん]した場合は母子ともに危険な状態に陥るケースもある。治療経験がある浜松市中央区の聖隷浜松病院循環器科の斎藤秀輝医師(38)は、息苦しさや嘔吐[おうと]など異常があった場合はすぐに病院を受診する必要性を訴える。

超小型の補助循環用ポンプカテーテルを使った心筋症治療のイメージ
超小型の補助循環用ポンプカテーテルを使った心筋症治療のイメージ
斎藤秀輝医師
斎藤秀輝医師
超小型の補助循環用ポンプカテーテルを使った心筋症治療のイメージ
斎藤秀輝医師

 「夜に突然、吐き気がしてベッドで横になっても息が苦しかった。最初は一晩寝れば治ると考えたが、症状がひどく、夫の勧めで病院に行くことになりました」。同区のパート従業員、坂本美佳子さん(40)は2020年6月、妊娠34週目に周産期心筋症を発症した際の出来事をそう振り返る。
 坂本さんはかかりつけの聖隷浜松病院を受診。心筋症の疑いがあるとされ、すぐに緊急の帝王切開で第1子の男児を出産した。検査の結果、坂本さんの左心室が動いていないことが分かったため、血行を安定させ、心機能回復を助ける米アビオメッド社の超小型の補助循環用ポンプカテーテルを心臓に挿入する治療を受けた。経過は良好で、挿入していたポンプカテーテルを術後6日で取り外し、約1カ月後に母子そろって退院できた。
 斎藤医師によると、周産期心筋症は毎年、国内で妊産婦2万人に1人程度の割合で発症する。はっきりとした原因は分かっていない。典型的な兆候は、いつもと同じ運動をした際や、横になって眠ろうとした際に息切れが強まる場合など。血液が体内をうまく循環していないサインという。妊娠高血圧症や高齢出産、多胎出産の人は発症リスクが高くなる傾向がある。
 患者の絶対数は少ないものの、発症した場合は1割程度が死亡し、3割程度は心臓の機能が回復しないままになる。心臓の超音波検査をすれば異常はすぐに分かるが、妊娠期の通常の息切れと勘違いして発見が遅れ、症状が重篤化してから病院に搬送されるケースが多い。治療法はポンプカテーテル挿入のほか、軽症の場合は心臓の負担を和らげる薬や利尿剤など内服薬で対応するケースがある。
 斎藤医師は「治療が早ければ早いほど、回復の可能性が高まる。妊産婦とその家族だけでなく、医師も含めて病気に対する知識を持ってもらい、異常があればすぐに周産期心筋症を疑うことが大事」と話す。
 坂本さんはその後、第2子を産み、現在は日常生活を支障なく送っている。「回復した後は子育てもあったので、超小型のポンプカテーテルによる手術は体に負担が少なくありがたかった」と話し、「自分も家族が早めに気付いてくれたので助かった。異常を感じたらためらわずに病院へ行ってほしい」と強調した。
 (生活報道部・草茅出)

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