クマ撃退スプレー、静岡新聞記者が体験 「強力な噴射 皮膚に痛み」【動画あり】

 全国でクマの目撃や被害が相次ぎ、撃退用スプレーなど対策グッズの需要が高まっている。浜松市では今月2日、JR浜松駅に停車中の新幹線内でスプレーが誤噴射されて乗客5人が目や喉に痛みを訴える騒ぎがあり、グッズの危険性も印象づけた。安全な使い方や保管方法は―。本社記者が市職員同行のもと、同市天竜区の山中でクマ撃退スプレーの噴射を体験した。

「クマ撃退スプレー」を噴射する本社記者=15日、浜松市天竜区(浜松総局・山川侑哉)
「クマ撃退スプレー」を噴射する本社記者=15日、浜松市天竜区(浜松総局・山川侑哉)

液こぼれ付着、事前に手順確認を  一見、小さな消火器のように見える赤色のスプレー缶。大きさは約20センチ。ずっしりとした重さで表記の310グラム以上に重く感じた。
 説明書には、現地到着前に発射レバーを固定するプラスチック製のテープを切り取ることを推奨していた。手では難しく、はさみを使って外した。誤噴射を防ぐため、使用の直前に別の安全装置(セイフティクリップ)を外す必要もあるが、成人男性でもある程度の力を擁した。
 右手でグリップ部分を握り、左手を添えて発射態勢を整えた。発射レバーを右手親指で軽く押すと、中身が白いガス状となって勢いよく飛び出した。噴射が終わるまでは10秒ほど。前方が一時、見えなくなるほど強力だった。無風の屋内で噴射した場合、距離は最大約10メートルまで及ぶ。新幹線のような狭い屋内では、数秒の噴射で充満してしまうことも容易に想像がついた。
 中身は、辛みや刺激をもたらす成分「カプサイシン(CA)」が含まれている。クマの興奮を静め、攻撃能力を奪う効果がある。ガス状のCAが皮膚に付着すると鼻や口、喉、肺の粘膜が焼けるように痛むが、この日は向かい風がなく、目や喉などの痛みやにおいも感じることはなかった。
 予想外だったのは噴射と同時に、赤い液体がこぼれ出したことだ。香辛料が入ったソースのような独特なにおいを感じた。液体が手に付着し、しばらくして皮膚を刺すような痛みが襲った。その後は日焼けした後の肌のように、ヒリヒリする感覚が夜まで続いた。
 十分な効果を発揮するには、クマをガスの射程まで引きつけなくてはならない。対面した際の恐怖や焦りを考慮すれば、安全装置を外すといった一連の手順を確実に行うことも容易ではない。事前に噴射の手順を確認し、しっかりとイメージしておくことが大切だと実感した。

専門家「成分強烈 最終手段に」  クマの生態に詳しい専門家は撃退スプレーについて「攻撃態勢に入ったクマを撃退する唯一の方法といえる」と有効性を指摘する。一方で、「成分は強烈。最終手段と心得てもらいたい」とも呼びかける。
 自然環境や野生動物の保護を推進する知床財団(北海道斜里町)では、ヒグマの出没が多い地域に向かう登山者らにスプレーを貸し出している。その際、契約書作成や危険性の解説、ダミーのスプレー缶を使った練習など入念な事前説明を徹底しているという。貸出業務を担当する片山綾さん(42)は「体の大きいクマに効くということは当然、人体にも大きな影響を与える可能性があると伝えておく必要がある」と強調する。
 JR浜松駅に停車中の新幹線内で発生した騒ぎは、登山帰りの乗客がリュックサック外側のサイドポケットにスプレーを収納していたところ、荷物を置く際に誤噴射が生じたとみられる。近くにいた乗客5人が軽傷を負ったほか、その後の新幹線に遅れが出て約3万9000人に影響した。
 片山さんは「できる限り現地調達を図り、公共交通機関など多くの人がいる場所での持ち歩きは控えて」と訴える。スプレーの多くは1万円を超えるなど高額な商品が多い上、使用期限もある。片山さんは、都市部在住で時々登山をする人などにとっては「移動中の誤噴射のリスクも踏まえると、運用の難しさは拭えない。鈴やホイッスルなどクマと遭遇しないための工夫と併せて対策してほしい」と話す。
 (浜松総局・池田悠太郎、岩下勝哉)

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ

動 画

地域再生大賞