浜岡原発新規制基準審査 自然ハザード 残る2課題

 中部電力浜岡原発3、4号機(御前崎市佐倉)の再稼働の前提となる原子力規制委員会での新規制基準適合性審査は、前半戦の自然ハザード(危険性)分野で長年にわたる懸案となっていた三つの審査項目のうち、耐震設計の目安となる最大の揺れ「基準地震動」が今年9月末に決まった。今後は想定される最大の津波高「基準津波」の決定と、「敷地内断層の活動性評価」という残された二つの課題を巡る議論に主な焦点が移る。中電の説明が早期に規制委の理解を得られるかどうかが、審査全体の行方を大きく左右する。
 (東京支社・関本豪)
自然ハザード分野の審査の進捗
敷地内断層の活動性評価 新物証 突破口なるか  今年8月の審査会合。中電が提出した資料に、1枚の「参考」の紙が入っていた。浜岡の敷地北側約1キロ地点の地層の中に、新たな火山灰層を確認したことが記されていた。中電はこの火山灰層が、膠着(こうちゃく)状態に陥っていた敷地内断層の活動性評価の議論を進展させる“突破口”になると期待を寄せる。
中電の調査で火山灰層と断層が新たに見つかったBF1地点(1)とHー9断層の上載地層の調査地点(2)。奥が浜岡原発=8日、御前崎市佐倉(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
H断層系の分布図
 立証手法
 そもそも、敷地内断層の活動性評価とはどのようなものか。原子炉など安全上重要な機能を持つ原発の施設は、将来的に地震を引き起こす可能性のある「活断層」の上への設置が禁じられている。新規制では活断層と認定する基準を「後期更新世(約12万~13万年前)以降の活動が否定できないもの」と定めている。
 事業者は要求を満たすため、原発敷地内の断層が明示された年代以降には「活動していない」と、科学的に立証する必要がある。
 中電は「上載(じょうさい)地層法」と呼ばれる立証手法を採用している。ふたをするように断層を覆う上位の地層(上載地層)が12万~13万年以前に形成されたと物証を用いて明確化し、ずれや変形など断層活動により生じた痕跡もなければ、断層自体の活動性を否定できる考え方だ。
敷地内断層の活動性評価のイメージ
 調査難航
 浜岡の敷地内には大小の多数の断層が存在する。中電はまず第1段階で、どの断層を評価対象にするかという「代表性」の説明を行った。海域から陸域にかけてほぼ等間隔で東西方向に走る断層群「H断層系」が「最後に動いた断層」と特定し、規制委も「おおむね妥当」と了承。第2段階では、H断層系が「全て同じ時代に一体として形成されているため、どの断層でも評価が可能」という「同一性」を示した。規制委が「考え方は理解できる」としたのを受け、上載地層が唯一残っていた最も北側のH―9断層で最終的な第3段階の「活動性」を評価する意向だった。
 ところが、2年近くをかけたH―9断層の上載地層の調査では、火山灰や化石、花粉といった堆積年代特定につながる物証が発見されなかった。難航する中で「これ以上ここにしがみついても、出ないものは出ない」(担当者)と判断した中電は今春、調査拡大に踏み切った。狙いを付けたのが、H―9断層の上載地層と同じ泥の地層だと過去の文献に記録され、便宜的に「BF1」と名付けた冒頭の敷地北側約1キロの地点だった。
BF1地点の地層状況(中部電力提供写真に文字などを加筆)
 局面転換
 25メートルプールより大きい面積に深さ8~10メートルのトレンチ(溝)を掘ったBF1地点の調査は、夏に局面が変わった。厚さ1センチ程度の火山灰層とH断層系に特徴の類似した断層を発見したためだ。中電は火山灰層の成分を分析し、約13万年前の阿蘇山の噴火によるものと評価する。担当者は「上載地層の明確なエビデンス(物証)だ」と高揚感を隠さない。火山灰層を含む上位の地層に、下位の断層活動の影響を受けたずれや変形もないとしている。
 ただ、規制委の関係者は「今回の断層がH断層系と言えなければ、単に敷地外に火山灰層があったに過ぎない」とくぎを刺す。もともと中電が同一性を説明してきたのは陸域9本、海域5本の計14本のH断層系のみ。H―9断層からBF1地点までの敷地外1キロの間では類似する断層の分布状況は把握しきれていない。
 中電はボーリングなどで周辺のデータを集め、本年度内に再整理した論理構成やBF1地点までのH断層系全体の同一性を説明、24年度前半に議論を決着させるスケジュールを描くものの、規制委側は現地調査も経て慎重に検討を重ねるとみられる。中電の思惑通りに進むかは、まだ見通せない。

基準津波 最終決定へ議論大詰め  基準津波決定に向けた議論は大詰めを迎えている。
 中電はこれまで、地震により発生する津波と、地震以外により発生する津波に分け、それぞれの要因ごとに津波高を評価してきた。
 この中で時間を要したのが、浜岡に最も支配的な影響を及ぼす「プレート間地震」(南海トラフ地震)の津波評価。中電は当初申請の際には、敷地前面の最大高を21・1メートルとしていた。審査過程で評価手法を変更したり、科学的な「不確かさ」をより厳しく設定して解析したりした結果、既存の防潮堤(22メートル)を上回る22・7メートルまで引き上げた。規制委は昨年7月、この評価の妥当性を「おおむね把握できた」と判断した。
 「海底地滑り」「火山現象」という地震以外の津波評価は、今年9月に確定した。中電は次回の審査会合で、地震による津波の中で固まっていない「海洋プレート内地震」と「海域の活断層による地震」を説明する。ここで規制委が了承すれば、個別の津波評価が全て出そろうことになる。
 加えて、新規制では個別の事象が連動的に発生し、津波が重なり合うことを想定した「組み合わせ評価」を最終的な作業として求めている。中電は▽プレート間地震と海域活断層地震▽プレート間地震と海底地滑り―の組み合わせが起こりうる現象だとして、この二通りの評価を実施する考えを規制委に伝えている。
 組み合わせ評価を終えた段階で、個別評価と並べて最も高い数値が基準津波になる。中電は来年初めに決定させるスケジュールを目標に、「組み合わせの計算を既に進めている」。
 審査が先行した他の原発では、組み合わせ評価で津波高の上がったケースが複数ある。規制委事務局の原子力規制庁担当者は昨年8月、御前崎市と市議会に審査状況を説明した場で、浜岡も現時点で最も数値が大きいプレート間地震単独の22・7メートルから「上振れする可能性は否定できない」との見解を示している。
基準津波決定に向けた審査
 ※図表は中部電力の説明資料、原子力規制委員会の公表資料などを基に作成

今後の展望 防潮堤 追加対策を検討  中電は基準津波の決定後、速やかに建屋や設備などのプラント審査を再開するよう規制委に要望している。ここでは最初に、基準地震動と基準津波の現象を防護するための耐震、耐津波設計の方針を説明する。
 注目は22メートルの防潮堤の扱い。プレート間地震単独でも22.7メートルの想定高が決まっているため、組み合わせ評価の結果にかかわらず、基準津波が防潮堤を越える数値となるのは確実だ。
 新規制では、津波で敷地が浸水しない「ドライサイト」を原則としていることから、かさ上げは不可避との見方がある。林欣吾社長は過去の記者会見で「基準の適合に向けて検討していきたい」と追加対策に前向きな考えを示している。
 プラント審査は既に合格した他原発の先行事例を踏襲する部分も多く、中電は「資料をしっかり作って説明すれば、基本的にはそれほど時間はかからない」と見込む。それでも、先行原発では2年程度を要し、浜岡と同じBWR(沸騰水型炉)は設備数の少ないPWR(加圧水型炉)に比べ長くなる傾向もあるという。
 並行的に行われる可能性がある敷地内断層の議論で活断層でないことを証明できなければ、プラント審査がいくら順調に進んでも全体の合格には至らない。中電にとって正念場は続く。
浜岡原発。中電は敷地前面の防潮堤の追加対策を検討している=8日、御前崎市佐倉(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞