大自在(12月9日)「ハッピーバースデートゥーユー」の1曲分

 「ハッピーバースデートゥーユー」が1曲15秒程度。新型コロナ対策の手洗いには2回歌うとちょうどいいそうだ。コロナ初期によく聞いた。今でもそれだけ丁寧に手洗いしている人はどれほどいるだろう。言われ続けないと気が緩むのが人間の性[さが]かもしれない。自省を込めて。
 東日本大震災の後、被災体験を伝える語り部が注目された。当事者が語る教訓は真に迫り、震災後何年たっても聞く者の防災意識を引き締めてくれる。
 4年前、河北新報(仙台市)の協力で語り部3人に静岡で講演してもらったことがある。祖母を亡くした女性の「日常は当たり前ではない。後悔のないように生きて」との訴えが印象的だった。
 本県で最後に起きた東海地震は江戸時代の1854年。もちろん存命の語り部はいない。一方、1944年12月7日に起きた昭和東南海地震は県内でも語り部による地道な伝承が続く。袋井市の袋井西小で今年も体験談を聞く会が開かれたと本紙8日付朝刊にあった。
 語り部が年々減る中、東南海地震の証言は重要性を増している。本社も体験談を募集したところ、これまでに20通を超す手紙が寄せられた。かけがえのない証言を伝え残し、現代にどう生かせるか皆で考えることが大切だろう。
 もし当時、緊急地震速報があれば多くの命が助かっていたに違いない。震源から推測するに本県が激しく揺れるまでに15~20秒ほど猶予があったはずである。「ハッピーバースデートゥーユー」1曲分で何ができるか。語り部の証言を参考に訓練を重ねてみてはどうだろう。

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