大自在(11月17日)村越化石句碑20年

 生誕100年の俳人、村越化石(本名・英彦、1922~2014年)は20年前の11月14~16日、群馬県草津町のハンセン病国立療養所から藤枝市岡部町に60年ぶりに里帰りした。この時、79歳。病気のため失明してから30年近くたっていた。
 生家近くの「玉露の里」に建立された自身の句碑〈望郷の目覚む八十八夜かな〉の除幕式に招かれた。ワゴン車に同乗してきた介助の職員が、化石は式典に合わせ背広を新調したのだと筆者にほほえみながら教えてくれた。
 里帰りを詠んだ13句は〈茶の花を心に灯し帰郷せり〉に始まる。そして〈よき里によき人ら住み茶が咲けり〉。読むたび、どれほどかけがえのない3日間だったかを知る。
 生家に着くと、白いつえで土間をたたいたり、大黒柱を触ったりして、少年時代のままであることを確かめた。その晩は、すりおろした山芋を海苔[のり]でくるんで揚げた天ぷらを喜び、翌朝は門の横の大きなイチョウの幹を抱きしめた。13句に〈六十年ぶりのふるさと銀杏降る〉。
 〈山芋と里芋うまし里帰り〉も。好物なのだ。他に山芋の句はと卒寿記念自選句集「籠枕」を探すと、柿の句も多かった。〈柿二つ置かれて話生れけり〉〈見えぬ眼の目の前に置く柿一つ〉〈熟すまでいのち端座す柿一つ〉。
 租税・献上品として、兵糧として、食料・デザートとして、柿は日本の社会や文化と関わりが長い。山間部の人々が山地に自生する柿の実を平野部の穀類などと交換していた事例もあるという。「魂の俳人」が柿と向き合った時、心眼には何が見えたのだろう。

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