新型コロナ遺体の扱い 国が指針見直し検討 現場は即合理的運用を【解説・主張しずおか】

 新型コロナウイルス感染者の葬儀、火葬について、国は遺体を納体袋に入れるよう推奨する指針の見直しへ動き始めた。流行初期に策定されたまま、感染対策の局面が変わってもなお遺族は最後の別れを過剰に制限され、故人の尊厳が守られない事態が続いている。火葬場を運営する市町と病院、葬儀社は国の改訂を待たず、遺族の意向に沿う合理的な運用にかじを切ってほしい。

新型コロナに感染し、亡くなった人の遺体を納める「納体袋」=松崎町
新型コロナに感染し、亡くなった人の遺体を納める「納体袋」=松崎町

 現行の指針は2020年7月、厚生労働省と経済産業省が共同で策定した。納体袋の使用を推奨し、見送りの場では3密を避けるよう明記。葬儀社や火葬場は職員への感染や風評被害を懸念し、遺体を病院から火葬場へ直送したり、遺族による収骨を禁止したりと「指針以上の強い運用」(厚労省生活衛生課)が行われてきた。
 昨年母を亡くした県東部の60代女性は、家族で亡きがらを囲んでの見送りができなかった悲しみがいまだ癒えない。目張りされたひつぎを防護服姿の業者が運ぶという“物々しさ”にも心苦しさを感じたという。
 仮に遺体に触れても、手を洗えば感染は防げる。米疾病対策センターの発表(21年)では、接触感染の確率は全感染機会の1万分の1未満と極めて低い。今年に入りウイルスの重症化率や死亡率はさらに下がったこともあり、医師への取材では「納体袋は不要」との意見が目立つ。
 静岡市立静岡病院は今春、納体袋の使用をやめた。岩井一也感染管理室長は「病院の非科学的な対応が、業者の過剰な対応につながる。悪循環を絶ちたかった」と話す。当初は葬儀社側から使用を求める声もあったが、次第に理解が広がった。今は納体袋なしで遺体を引き取る社が約8割という。
 加藤勝信厚労相は10月27日の参院厚労委員会で「指針を早急に見直す」と述べた。厚労省生活衛生課は静岡病院の事例を把握した上で「指針はあくまで参考や目安。現場の状況に応じて、より良い扱いをしていただけるといい」としている。
 改訂を待つ間にも、理不尽に故人の尊厳が奪われる可能性がある。病院と葬儀社、火葬場の3者は、過度な対応をしていないか再考してほしい。市町と県は独自に通知を出すなど、3者が遺族の意向に最大限応じられるよう後押しすべきだ。静岡文化芸術大の田中啓教授(行政学)は「自治体は住民の利益を守るために、国の対応を待たずに行動する必要がある」と指摘する。

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