社説(10月31日)参院選制度改革 時間稼ぎは許されない

 1票の格差が最大3・03倍だった7月の参院選は憲法が求める投票価値の平等に反すると、弁護士グループが選挙の無効を求めて全国14の高裁・高裁支部に起こした訴訟は、大阪、東京、札幌、広島高裁が「違憲状態」と判断した一方、名古屋高裁、広島高裁松江支部は「合憲」の判決を出した。高裁段階の判決が出そろった後、最高裁が統一判断を示す。
 3・08倍の2016年選挙、3・00倍の19年選挙の最高裁判決はともに「合憲」。衆院選が合憲かどうかは2倍が判断基準になっているのに、なぜ参院選は3倍で合憲なのか納得できない有権者も多いに違いない。今回の大阪高裁判決も「3倍を超える不均衡は軽視できない」と指摘し、選挙制度見直しの必要性に言及した。
 5・00倍の10年選挙と、4・77倍の13年選挙は「違憲状態」と判断された。格差を是正するため、徳島県と高知県、鳥取県と島根県をそれぞれ一つの選挙区にする「合区」が導入されたが、違憲状態から脱する一時しのぎの対応と言わざるを得ない。時間稼ぎは許されない。
 人口減は都市部より地方の方が著しい。現行の選挙制度のまま格差を是正していくには合区をさらに増やしていくしかない。だが、国会の憲法審査会では合区の解消が改憲議論のテーマの一つになっている。
 憲法に都道府県を選挙区の単位にする定めはない。自民党は改選ごと各都道府県から1人以上選出できるよう改憲が必要と訴える。最大野党の立憲民主党は改憲には反対するものの、合区は地方軽視だとして理解を示す。
 ただ、合区の解消は1票の格差是正に逆行する。合区を解消する場合、選挙制度を抜本的に改革する必要がある。公明党や日本維新の会は全国を11ブロックに分ける大選挙区制の導入を求め、共産党は比例代表を中心とする選挙制度の見直しを主張する。
 米国では下院議員が「国民の代表」、上院議員は「州の代表」と言われ、上院議員は州人口の多少にかかわらず各州2人ずつ選出される。参院議員には党利党略から離れ、国民のために中長期的な視野で政策を論じることが期待されている。あらためて参院の役割を確認し、認識を共有した上で、制度改革を本気で進めるべきだ。
 19年選挙の後、参院は改革協議会を設置したが、各党が主張を述べるにとどまり、今回選までに方向性を示すことはできなかった。最高裁がどのような判断を下そうが、格差是正の取り組みは急がなければならない。「良識の府」の真価がここでも問われている。

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